誰ひとり取り残さない。読書バリアフリーを推進する、【オーテピア高知声と点字の図書館】へ
地域ボランティアに支えられた図書製作
利用者が限定される点字図書や録音図書、マルチメディアデイジー図書は、著作権法第37条により、著作権者の許諾がなくても製作できる。そのため、「声と点字の図書館」ではバリアフリー図書に変換する作業を行っている。具体的には、選書会で投票数の多かった作品を各ジャンルから数冊ずつ選び、それぞれ点字図書と録音図書を製作。これとは別に、利用者からのリクエストに応えてプライベートな点訳や音訳を行うこともある。 また、製作した点字や音声データはインターネット上のネットワークシステム「サピエ図書館」にも共有されるため、利用者は自宅にいながらコンテンツをダウンロードすることもできる。 2023年度の製作図書タイトル数は、点字図書が356、録音図書が66、マルチメディアデイジー図書が11。ベストセラー作品は、発売から数ヵ月で音声データができあがるという。これらの製作を支えているのが、総勢300人近くのボランティアスタッフだ。「当館の活動は、ボランティアさんあってこそのもの」と伊藤さん。高齢化によるボランティアの減少が危惧される中、「声と点字の図書館」ではボランティア養成講座や研修を実施し、点訳や音訳、デジタル資料製作のスキルアップに積極的に取り組んでいる。
読書バリアフリーを社会とつなぐために
バリアフリー図書は、点字図書と録音図書、マルチメディアデイジー図書だけに限らない。通常よりも大きな文字で書かれた大活字本、絵や写真が多くやさしい言葉で書かれたLLブック、触って楽しめる布の絵本や点字つき絵本、朗読CDなども含まれる。これら利用者が限定されない資料は、「高知図書館」に収集されている。 サービスが重複しないよう、「声と点字の図書館」と「高知図書館」がうまく連携・協力しながら、さまざまな読書のかたちを提案しているのがオーテピアの強みだ。それでも「まだまだバリアフリー図書やサービスが知られていない」と西岡館長は言う。大切なのは、県内全域に数万人規模で存在する、プリント・ディスアビリティのある人たちに広くその存在を知ってもらうこと。そのためにも、彼らと関わりの強い福祉施設や特別支援学校、医療機関を巻き込んだ取り組みが進められている。 バリアフリー図書の多くは市場流通が少ない。だからこそ、地域住民の情報拠点である公共図書館は、とても重要な役割を果たしている。「声と点字の図書館」と「高知図書館」が所蔵するバリアフリー図書を、障害者施設や市区町村図書館などの団体にセットで貸し出しする「さくらバリアフリー文庫」は、その一例だ。 活字が見えにくい、ページがめくりにくい、長時間集中して読むことができない。シンプルにそう言い表すことはできても、実際の読書の難しさは人によって異なる。一方で、それぞれが直面するバリアを取り除くための多様な方法が用意されている。そして、その方法を知らずに諦めてしまっている人に、しっかりと寄り添ってくれる人たちもいる。オーテピアは、そんな人と人とのつながりを実感できる、心温まる場所だった。本を読む楽しみは、すべての人に開かれている。ここに来れば、今見ている景色は大きく変わるかもしれない。 photography&text: Eimi Hayashi