無知の放流が「東京めだか」を絶滅状態に メダカの野生復帰はかなうのか?
THE PAGE
日本人にとって身近で親しみ深い淡水魚・メダカの絶滅が危惧されている。東京都でも、生まれも育ちも東京という野生の「東京めだか」は絶滅状態だという。東京都江戸川区にある葛西臨海水族園では、東京動物園協会が「東京めだか」の保全に取り組んでいる。メダカは野生に復帰できるのだろうか?
メダカに刻み込まれた地域の長い歴史
「メダカの小さな体には、自然環境の変化など地域ごとの長い歴史が刻み込まれています。そのかけがえのなさに思いが及ばないと、いつか人間の生存環境も失われかねません」と警鐘を鳴らすのは、メダカの保全に約10年関わってきた葛西臨海水族園教育普及係の多田諭主任だ。 日本のメダカは、秋田や新潟などの北日本に住む「キタノメダカ」と、おもに関東や西日本に住む「ミナミメダカ」の2種がある。さらに、遺伝子レベルの違いにより、キタノメダカは3グループ、ミナミメダカは12グループに分けられる。遺伝子のグループは、「東日本」や「関東」などおおむね地域ごとにまとまっており、長い時間をかけて生息域を少しずつ広げた結果、各地の環境に合わせて変化を遂げた結果とみられている。 東京都では、ミナミメダカの「東日本1」「東日本2」「関東」という3グループのいずれかに該当するメダカが生息している。東京動物園協会では、これら3グループでかつ生まれも育ちも東京というミナミメダカを、「東京めだか」と呼んでいる。純粋な東京産かどうかは、他の場所から移された記録の有無などを調べて判定している。
無知の放流が「東京めだか」を絶滅の危機に
東京動物園協会は、2006年から都内の川や池などでのメダカ生息調査を開始。昨年8月までに水辺33か所を調査し、このうち24か所でメダカを確認できた。しかし、DNAを調べると、ほとんどの場所で九州や関西など他地域の遺伝子グループの特徴が発見されている。これは、純粋な東京産ではない他のメダカが混じっている状況を意味している。 メダカが自分で移動するとは考えられない。明らかに人の手が関わっているのだという。何らかの事情で飼育しきれなくなった観賞用のヒメダカを川に放流する場合もあるほか、近年はメダカの減少を懸念して、他地域のメダカとは知らずに「良かれ」と思って放流するという、いわば「無知の放流」もある。 同協会では、ウェブサイトや各種イベントなどを通じてメダカを放流しないよう訴えている。他のメダカが確認された川や池は、繁殖の過程で遺伝子が混じり合うと考えられるため、たとえメダカがいても「東京めだか」の生息地と見なせないのだ。