アメリカの軍事政策に地殻変動が起きかねない大統領選、ハリス・トランプ両氏が画策するウクライナ戦争「出口戦略」
■ 「韓国方式」でウクライナ戦争を終結させるトランプ氏のシナリオ トランプ氏はウクライナ戦略に関して、「大統領に返り咲けば、プーチン、ゼレンスキー両氏に電話を1本かけて、戦争を24時間以内に終結できる」と、相変わらずのビッグマウスぶりを見せるが、これも話半分に聞くのが得策だろう。 ただし実際トランプ氏が大統領2期目に就任した場合、アメリカ憲法では大統領を3期務めることが禁止されているので、残り4年で最高権力を手放さなければならない。このため、大統領1期目中は再選も考慮して抑えていた大胆行動も遠慮なく実行する可能性がある。 その1つがウクライナ戦争の停戦、あるいは終結だ。ここでトランプ氏は「ウルトラC」を披露するかもしれない。 可能性としてありそうなシナリオが、ウクライナとアメリカが相互防衛条約を締結するという、いわゆる「韓国方式」だ。 1950年、北朝鮮は韓国に全面侵攻を行い朝鮮戦争が勃発。1953年に休戦し現在に至るが、韓国を支援するために参戦したアメリカは休戦直後に韓国と相互防衛条約を締結。集団的自衛権の軍事同盟で、北朝鮮や背後の中国・旧ソ連の軍事的脅威と対峙した。 ウクライナ戦争終結のスキームは、朝鮮戦争の休戦スタイルを参考とするもので、まず現在の戦線を、朝鮮半島と同様に「休戦ライン」(DMZ)と定め、このラインを中心に幅数kmの非武装地帯を設置。ロシアの占領地はロシア本国への併合は認めず、例えば親ロシアの「東ウクライナ共和国」として独立、ロシアにとって西側との間に存在する緩衝国として安全保障に貢献させる。 プーチン氏は停戦交渉についてウクライナの「中立国化」「NATO非加盟」を最低条件に掲げるようだが、ここからが「ディールの天才」トランプ氏の真骨頂と言えるだろう。 想定外の長期戦と膨大な人的・軍事的損失を被り、できるだけ早く戦争を収束させたいプーチン氏に対し、ロシア占領地の返還を諦める代わりに、アメリカがウクライナと集団的自衛権を盛り込んだ相互防衛条約を結び、ウクライナの安全保障を確固たるものとする、というものである。 ロシアが望むウクライナの中立化は、ゼレンスキー氏が絶対に認めるはずがない。それ以前に、再びロシアが侵略しないという説得力のある確証がなければ、休戦交渉には応じないだろう。 またウクライナのNATO加盟は、ロシアが絶対に容認しない。そこでウクライナにロシア占領地の返還を諦めさせ、ロシアにはNATO加盟の代わりにウクライナとアメリカが相互防衛条約を結ぶことを認めさせるという“取引”だ。 ここでロシア側はあくまでもウクライナの中立化に固執することが十分に考えられるが、この時にはトランプ氏が「安全保障のためにアメリカはウクライナに核保有を支援する」と、「核カード」を切る可能性が高い。 同時に、「ディールに応じなければ、日本や韓国にも核保有を勧めるが、そうなるとロシアは苦しい立場に置かれるのでは?」と、お得意の“恫喝”でプーチン氏を揺さぶるかもしれない。事実、トランプ氏はかつて日韓の核武装を容認する発言も行っている。 もちろんウクライナの核武装をプーチン氏が許すはずがない。だがその時は、昨今の北朝鮮のウクライナ戦争参戦の事実を引き合いに出し、違法な核開発で国連制裁を受ける北朝鮮と軍事同盟を結ぶロシアの立場を指摘すれば、プーチン氏は反論できないはずだ。 これらはあくまでも1つのシナリオに過ぎないが、世間を驚かすのが大好きで、しかもウクライナ戦争終結の立役者として、ノーベル平和賞の受賞を真剣に狙うトランプ氏だけに、荒唐無稽と一笑に付すことはできないだろう。 いずれにせよ間もなくアメリカで「ハリス次期大統領」か「2期目のトランプ大統領」のどちらかが決まるが、これに合わせて世界情勢も大きく変わりそうだ。
深川 孝行