アメリカの軍事政策に地殻変動が起きかねない大統領選、ハリス・トランプ両氏が画策するウクライナ戦争「出口戦略」
■ トランプ氏は本気で「NATO脱退」に向けて動き出すのか 一方のトランプ氏は、「ディール好きな不動産王」に加え、「バラエティー番組の司会者」というエンターテイナーの顔も持つ。 テレビ番組内で連発するトランプ節「You're are fired!」(お前はクビだ! )は有名で、選挙戦でもハリス氏攻撃などに多用してきた。メディアでの見出しの扱いや聴衆の食いつき方を計算しながら毒舌を発するだけに、大言壮語のうのみは禁物だ。 これを踏まえトランプ氏のNATO戦略を読み解くと、最大の懸念はやはり大統領就任の2017年以前からたびたび叫んでいる「脱退論」だろう。自身が属する共和党、同盟国をも揺るがせているが、仮に大統領に返り咲けば、本当に脱退に本腰を入れ出す恐れがある。 MAGA(Make America Great Again=アメリカを再び偉大な国にする)を唱えるトランプ氏の岩盤支持層にとっては、自国の防衛をアメリカに頼り切り「おんぶに抱っこ」状態のNATOは、ある意味MAGA実現にとっての大きな支障と映る。 日頃からNATO脱退をたきつけながら、いざ大統領に返り咲いて実現させなければ信用はガタ落ちで、トランプ氏の強さの源泉でもある岩盤支持層は崩れかねないだろう。 だが、「NATOは時代遅れ」と否定的意見を述べながら、一方で2024年3月に行われた英メディアのインタビューでは、「加盟国が相応の国防費を負担すれば、アメリカは100%NATOに残留する」と強調した。「何が何でもNATOから脱退するとは言っていない」と、やんわりと軸足を移し始めているとも言えそうだ。 現実問題としてNATO脱退はかなりハードルが高い。まず、すぐには離脱できず1年間の猶予が必要だ。加えてアメリカでは条約の離脱は大統領が権限を有するとの説が一般的なようだが、連邦議会は「安全保障に関するものについては、当然議会承認が必須」と強調し、両者は対立状態にある。 また2019年にはトランプ氏が独断でNATO脱退を宣言しても無効となる「NATO支援法案」(NATO脱退を禁止)を、事態を深刻に受け止める民主・共和両党の議員たちが超党派で提出している。 結局下院では可決したが上院では通過せず実現しなかった。だが、「脱退」が安全保障上極めて大きな損失になると考える議員が、党派を問わず相当数にのぼる事実をトランプ氏に突きつけた格好となり、この「脱退抑止」の効果はかなり大きかったと見られている。 同様の動きは2023年にもあり、こちらも国防権限法案(NDAA)内に「NATOからの脱退には議会承認が必要」との内容を盛り込もうと超党派で挑み、現在も審議が継続中らしい。 ただしトランプ氏がぶち上げた「NATO脱退」の爆弾発言は、遅々として進まなかった「国防費のGDP比2%」の達成義務を一気に加速させるというプラスの効果をもたらしているのも事実で、これを評価する声も少なくない。