【トランプ関税回りまわって元安にも】トランプ2.0が中国政府・企業・人民に生み出す波紋とは?
外交面では中国に追い風か
一方で、トランプ2.0が外交面で中国にとっての追い風になるともささやかれている。予測不能のトランプ外交によって米国とその友好国の関係に亀裂が生じ、中国がつけいる隙が生まれるという観測だ。 特に台湾問題に関しては、経済面で中国に譲歩させる代わりに米国による台湾支援を縮小するというディールがありうるのではと見る向きもある。台湾世論にも、中国との衝突に際して米国は支援してくれないと見る疑米論が再燃する可能性は高い。米国の支援が得られないのであれば、中国への譲歩やむなしという意見が勢いを増すだろう。 また、欧州と米国の関係も注目される。ロシアのウクライナ侵攻によって、権威主義体制への抵抗の機運が高まり、欧州も米国と協調して対中姿勢を厳格化した。ここがゆるむとなれば、中国にとっては“西側陣営”切り崩しの好機到来と見えるだろう。
中国人材はどう動くのか
トランプ次期大統領の公約の一つに、不法移民に対する取り締まり強化がある。この影響が不法移民だけではなく、合法的な居留権限を持つ中国人移民にも影響する可能性はある。 第1期トランプ政権下の18年から始まった政策にチャイナ・イニシアティブがある。中国系企業や中国人研究者に対する監視を強化し、技術や知財を守ろうという狙いだ。しかし、現実には米国の大学や企業を支える中国人研究者に対し、無実の罪を疑うなどの弊害が多かった。 摘発された大半のケースで有罪判決は出ていない。チャイナ・イニシアティブは米国の技術を守るどころか、むしろ優秀な人材を流出させ技術力を低下させることにつながりかねないとして、22年に撤回されている。 トランプ2.0でこのチャイナ・イニシアティブが復活するのではとの不安はすでに広がっているようだ。米国の強みは世界中の人材が集まる移民国家という点にある。 中国は重要な人材供給源の一つ、安全保障を担保しつつ、いかに萎縮させずに人材を集めるか。慎重な判断が必要だが、派手なアクションが売りのトランプ次期大統領にそのさじ加減が可能なのか。蓋を開けてみなければわからないが、在米華人の間では「中国での仕事を探したほうがいい」などというジョークも聞かれるという。 20年の新型コロナウイルスの流行、21年から始まった不動産危機、23年に表面化した経済低迷……。中国にとってはネガティブな環境が続く。これほどまでに不安定でリスクを抱えた状況は21世紀になって初だろう。ここにトランプ2.0という新たなリスクが加わることになる。
高口康太