【ラグビー】人生初の半年オフで「強い身体を作る」。具智元[コベルコ神戸スティーラーズ]
コベルコ神戸スティーラーズの具智元はこの夏、約半年間に渡るオフシーズンを初めて過ごしている。 約8年間、走り続けてきた。 初めてプロの世界に足を踏み入れたのは2016年、拓大3年時だ。 サンウルブズの初代メンバーになった。 翌年には日本代表デビューを飾り、以来ジャパンのスクラムの核として29キャップを重ねた。2019年と2023年のワールドカップでは全試合に先発した。 常に強度の高い試合をこなし、緊張感の高い環境に身を置いていた。代表活動が終われば、トップリーグ、リーグワンがあった。 心身を休ませる時間がなかったのだ。 「8年間ずっとラグビーをやっていて、こんなに長い時間オフがあるのは初めて。すごく良い時間だと感じています。焦りもなく、しっかりメンタルを休めることができています」 自分のいない日本代表の試合も、以前と変わらず注視する。テンポの速さ、スクラムの強さを感じ、「これからが楽しみ」と表情を崩す。 若手の台頭も喜ぶ。 「前から思っていたけど、すごく良い3番が増えています。これからまだまだ出てくると思う。特に代表の3人はスクラムだけでなく、フィールドプレーも良い。今のラグビーに適切な3番だと思います」 今後の日本代表や次のワールドカップへの思いを聞けば、「今は『戻りたい!』という気持ちより、まずはメンタルをしっかり休ませて、強い身体を作りたい気持ちの方が大きい」と答える。 「(来季の)リーグワンの試合に全部出て、優勝に貢献するのが一番の目標。一番強い状態の自分が2027年にいて、結果的にワールドカップに出られたらいいなと思っています」 この貴重な半年間を有効活用したい。じっくり体と向き合うという。 「身体づくりの時間がこれまでなかったので、まずはケガをしない身体を作りたいです。あとは、ボールキャリーでどう動けば相手が嫌がるのか、シチュエーション毎にどうタックルするのがいいのかなども考えながらプレーできるようになりたい。もう30歳なので、賢くプレーしたいと思っています」 Honda HEATからスティーラーズに移籍して来季で4季目を迎える。加入1、2年目はケガに悩まされた。 「ケガのストレスがすごくありました。だから、このオフでケガしない身体になれるのがすごく楽しみなんです」 1年目は首の大手術があって開幕から5試合、2年目は肉離れを「4回ほど」繰り返して終盤の5試合の出場のみに留まった。先発は2季でわずか3試合だった。 「たくさん迷惑をかけた分」、チームの力になりたかった。 「(加入3季目の)今年こそ絶対全部出る! という気持ちでやってきました」 果たして、昨季は脳震盪で欠場した第10節を除き15試合に先発出場。859分、ピッチに立った。 「5位でプレーオフに行けなかったので成績には全然満足してないけど、少しはチームに貢献できたと思います」 大きなケガもなく1シーズン過ごせたのは、自身を客観視できたからだ。「無理をしてしまう性格」と分析し、普段のトレーニングを見直していた。 毎日コーチ陣から提示される練習時のGPSデータを見て「これしか走っていないのか」と思いながらも、そこでグッと堪えていたのだ。 「これまでの自分であれば走れていないことに不安になって、もっと追い込んでいた。学生まではそれで大丈夫だったんですけど、社会人になってからは肉離れを繰り返しました。サボるわけではありませんが、これ以上やったらケガしそうだなというところで抑えられるようになった。自分の体ができあがっているなら、まずは試合に出てチームに貢献するべきと思えるようになりました」 デイブ・レニーHCのもとで試合を重ねたことで、例年に比べてパフォーマンスも向上できたと実感する。 「タックルしてからすぐに起き上がって必要なプレーに戻ることができるようになりました。もともと距離は走れたけど、ただ走れればいいということではないと教わりました」 手応えと同時に来季に向けた伸びしろもあると感じる。最大の武器であるスクラムだ。 「選手一人ひとりを見たらもっとできるはず。スクラムでペナルティを取って、みんなを楽させたい」と思いを口にする。 「今年は良い時はすごく良いけど、悪い時はうまくいかなかった。自分も経験があるプロップなので、このオフで自分なりに考えて、みんなとコミュニケーションを取っていきます」 トレーニング外の時間には、元ホンダのCTBで格闘家の兄・智允さんが神戸の元町でまもなく開店する韓国料理店『スクラム食堂ポチャ』にたびたび顔を出す。 「7月17日オープンです! ぜひ来てください!」と話し、インタビューを締めた。 (文:明石尚之)