谷垣氏が新幹事長に「自民党三役」とはどんな役職? /早稲田塾講師 坂東太郎のよくわかる時事用語
かつてほどの影響力はない?
ただ近年は派閥の力が首相による政府主要ポストや党役員ポストの人事に際して一定の影響力が残っているぐらいで(政府では主に副大臣や政務官、党では3役クラス以外)、幹事長が領袖のポストというほどではなくなってきました。首相の対抗勢力が幹事長を取ってにらみ合うというのも安倍首相・石破幹事長以外さほど見られません。そもそも領袖にならないまま首相になるケースが増えています。 最近では小泉純一郎、安倍晋三、福田康夫の各氏は領袖ではないし、安倍氏は幹事長経験がありながら先の総裁選で領袖の町村信孝氏を破っています。領袖かつ幹事長経験者は最近は麻生太郎氏ぐらいしかいません。 幹事長が「選挙の顔」というのもいささか疑問。小泉政権の安倍氏や第一次安倍政権の麻生氏はそう言えても、他は近年「まとめ役」向きのベテランや小泉政権の武部勤氏のように他派閥ながらイエスマンという人事が目立つのです。 というのも幹事長は選挙に勝つ以外にも国会で波乱が起きないよう国会対策委員長(「党」の役職)とタッグを組んで根回ししたり「党」の代表者として他党と討論したり、「党」の広報担当(「政府」では官房長官)を担ったりとソツのなさも重要なので。変に「華」を重視すると、こちら側からほころぶ恐れが十分にあるのです。 なお総裁経験者から初の幹事長となったことで話題の谷垣氏。いくつかの理由が考えられます。まず谷垣総裁は民主党政権下の珍しい「野党の自民党総裁」で首相になれませんでした。と同時に野党党首として自民党総裁が首相を兼ねている時に幹事長が行う仕事も熱心にこなし2012年12月の政権再交代につなげています。同じく「野党の自民党総裁」で終えた河野洋平氏が後に衆議院議長に処遇されたように、然るべきポストを用意すべき存在であり、手腕も期待できる。派閥の領袖でもあり重厚さも十分。ハト派(穏健派)でタカ派とみられている安倍内閣とのバランスも考えたのでは。閣内にいると意見の違いを野党から「閣内不一致」と攻められます。でも「党」ならば多少内閣と異なった動きをしても「政府」は「党の方のお考えもあるでしょうから」とかわせるのです。