中東地域の地政学リスクが一段と強まる:イランのイスラエル報復攻撃が近づく
バイデン・ハリスはイスラエルへの姿勢を強化
バイデン大統領が5月末に示したガザ停戦案を受けた停戦合意は、ハニヤ氏の死亡で事実上振り出しに戻った感がある。米ニュースサイト「アクシオス」によると、バイデン氏はネタニヤフ首相との1日の電話会談で、中東情勢の沈静化とガザの停戦交渉合意に向けた行動を直ちに取るよう非公式に要求した。さらにバイデン氏はイスラエルによるヒズボラ最高幹部殺害などに強い不満を示し、再び緊張激化を招く事態を起こした場合には、米国はイスラエルを支援しないと述べたという。 従来、イスラエル寄り過ぎると国内で批判されてきたバイデン氏が、イスラエルに対して強い姿勢で臨んだのは、中東情勢の一段の悪化を回避するとともに、バイデン政権がイスラエル寄りとの米国内での批判をかわす狙いもあるだろう。ハリス副大統領も、訪米したネタニヤフ首相に、ガザでの軍事行動と「悲惨な人道状況」に対し「深刻な懸念」を表明し、「もうこの戦争は終わりにしなくてはならない」と迫った。 一方で共和党大統領候補のトランプ氏は、イスラエル寄りのキリスト教福音派やイスラエル系米国人の支持を意識して、イスラエル支持の姿勢をより鮮明にしており、大統領選挙でのイスラエルに対する姿勢の違いが一層広がっており、イスラエルに対する姿勢が、大統領選挙の争点の一つになっている。
中東での地政学リスクの高まりが世界の金融市場をさらに不安定化するリスク
米国では、景気減速懸念から、株価は不安定な動きとなっている。仮に、中東での紛争地域が拡大し、また、イランとイスラエルの軍事的対立が本格化すれば、原油供給に支障が出るとの観測から原油価格が大きく上昇する可能性がある。それが米国及び世界経済の悪化懸念を増幅し、世界的な株価の調整を促すなど、足もとで不安定化する世界の金融市場の一層の動揺につながる可能性も出てきた。 (参考資料) 「米、中東に戦闘機・軍艦 イスラエルの防衛強化 追加派遣」、2024年8月4日、朝日新聞 「ハニヤ氏殺害 イランの革命防衛隊「施設外から短距離弾で殺害された」」、2024年8月4日、日本テレビニュース 「イスラエル防衛 艦艇派遣 米長官 イランの報復抑止図る」、2024年8月4日、京都新聞 「ヒズボラ、イスラエルに報復を宣言 司令官の殺害受け」、2024年8月3日、日本経済新聞電子版 「ネタニヤフ氏、再び強硬策 ハマス幹部殺害 米政治の空白にらむ」、2024年8月3日、日本経済新聞 「米国の「空白」見透かすネタニヤフ氏 延命へ再び強硬策」、2024年8月2日、日本経済新聞電子版 「イラン、報復にジレンマ 首都でハマス指導者殺害 イスラエルと正面衝突の余裕なし」、2024年8月2日、日本経済新聞 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
木内 登英