「また人生を楽しめるように」 ウクライナ…親を亡くした子どもの心癒やす“リハビリキャンプ”
南部・ザポリージャから来たイワンさん(14)の父親が亡くなったのは取材のわずか2か月前、今年4月のことだった。 勤務していたガラス工場にロケット弾が直撃したという。それにもかかわらず、イワンさんは淡々と、時には笑顔も交えて父親について語ってくれた。担当の心理学者は、こうしたふるまいを「内面の弱さを守るための、精神の防衛的なメカニズム」だと分析している。カウンセリングでは感情に向き合い、「父の死を悲しむ」プロセスを始めることに取り組んでいるという。
■「前は『楽しいふり』をしていましたが、今は本当に…」
アナスタシアさん(11)の父は志願兵として軍に入り、激戦地だったバフムト近郊で2023年5月に戦死した。葬儀の際、母親には家で待つように言われたが、行くといって譲らなかったという。「ママを一人にしたくない」と思ったからだ。キャンプでの時間を経て「前は『楽しいふり』をしていましたが、今は本当に笑っています」と笑顔を見せた。
北東部・ハルキウ州のフロザ村で暮らすドミトロさん(16)と妹・アナスタシアさん(11)は2023年10月、ロシア軍のミサイル攻撃で両親と祖父母を失った。ミサイルが着弾した村のカフェでは戦争犠牲者の追悼集会が行われており、50人以上が死亡している。 妹のアナスタシアさんにやりたいことについて聞いてみると「引っ越したい」と答えた。具体的に行きたい場所があるのではなく、「環境を変えたい」のが理由だと話した。2人は両親と祖父母を失った村で今も暮らしている。アナスタシアさんの「環境を変えたい」という言葉には、彼女がこれまで感じてきた辛さと閉塞感が凝縮されているようだった。
■喪失を経験した子どもが「また人生を楽しめるように」
キャンプは親との死別という心の傷を癒やし、子どもらしい日々を取り戻すことを目標にしている。キャンプを企画したGen.Ukrainianのレベデワ氏は、究極的にはこうした傷をなかったことにはできず、「奪われた子ども時代は戻ってこない」としたうえで、それでも活動には大きな意義があると力を込めた。 レベデワ氏 「喪失を経験した子どもたちとの2年間の経験から分かったのは、彼らが子どもらしい積極さを取り戻すことは可能だということです。(戦争の)影響を減らし、彼らがまた人生を楽しめるようにしたいのです」