どう見ても〝折り紙〟なのに「ぜんぜん折れてない」 SNSでも注目される現代美術家が平面に立体描く理由
折り紙モチーフの日本的な柔軟性
吉野さんの作品群には、もう一つのシリーズがあります。それが、変形パネル(さまざまな形にカットしたパネル板)に描く、折り紙をモチーフにした「Kami」シリーズです。 「折り紙をモチーフにしたシリーズは2014年から始めています。これは、まず折り紙を実際に折り、形を決めた後に、その形の変形パネルを作って、その上に立体に見えるように描いていきます。横から見ると壁からは少し浮いて見えますが、表面は平らです。 紙がモチーフなので、横から見ても薄く見えるように、パネルの端は斜め45度ぐらいにカットしてあります。展示をすると『どうなっているの?』と横から覗き込む方も多く、そうするとパネルに描かれた絵だと気づくようです」 折り紙をモチーフに選んだのは、大きな作品を手がけてきたこれまでの制作に「若干の行き詰まりがあったから」。「これ以上の展開を求めると、どんどん大きくするしかない」と、限界を感じたのだそうです。 悩んだ当時、大学院生だった吉野さん。大学の交換プログラムでイギリスのロンドンに短期留学に行き、街並みに「日本との違いを感じました」と話します。 「素材がレンガや石といった、すごく固いものでできていて、がっしり、ドーンとしている。デザインもシンメトリー。一方、日本は地震も多いから、その上に建つ街並みには空間的な柔軟性があると思いました」と吉野さん。 「文化も同じで、例えば海外ではベッドルーム、リビングルームと分けていく国もあるのに対して、日本は同じ部屋に布団を敷いて寝室、ちゃぶ台を置いて居間にするという違いがある。サイズが決まっている洋服と、ある程度、サイズを許容できる着物も違うなと思いました」 この「日本的な柔軟性」を表現できるのが、1枚の紙を折りたたんで鶴や花といった立体を生み出せる、折り紙というモチーフだと考えた吉野さん。「穴」のようなモチーフはどうしても画面が暗くなるため、折り紙ならさまざまな色を使えるという利点もあります。展覧会では「Kami」は大人だけでなく、子どもにも人気のシリーズになっています。 制作の背景について話を聞くと、非常に論理的に答えてくれる吉野さん。そう伝えると「感覚的に制作するアーティストの方もいらっしゃると思いますが、私は逆にそれが得意ではないので、そうですね、ある意味で計算をして描いてきました」と振り返ります。 「現代美術ってわかりにくい、というイメージが私自身にもあったので、比較的、誰にでも親しみやすく、わかりやすい方向にしたいという意図が、初期のころからあったと思います。 2月にある個展は、現在鋭意制作中の、『Kami』シリーズの新作を中心とした展覧会になる予定です。ぜひ多くの人に観にきていただけたら」 【吉野もも「Breathing Breeze」】 2025年2月5日(水)~17日(月)営業時間10時~19時[最終日17時終了] 日本橋三越本店 本館6階 コンテンポラリーギャラリー TEL 03-3241-3311(大代表)