『52ヘルツのクジラたち』成島出監督 映画は寄り添い共有することが出来る【Director’s Interview Vol.390】
リハーサルを行う意義
Q:1週間のリハーサルでは具体的にどんなことを行なったのでしょうか。 成島:まず衣装合わせをして読み合わせをし、実際のシーンをやってみる。あとはゲームをしたり、皆で色々なことをやりました。撮影現場で「初めまして」となって、いきなり「本番いきます!」だと、どうしたって緊張する。リハーサルをする一番の理由はリラックスすることです。 カメラマンは「こういう表情をするのであれば、こう向かっていこう」とか、演出する我々も「こういう個性であれば、こうしよう」とか、リハーサルで色々と探っていきます。俳優陣ともコミュニケーションをとって、「今のセリフは言いづらくない?」「ちゃんと気持ちに落ちた?」と、セリフを確かめていきつつ、必要があれば脚本を直していく。そういうことをやっていると、あっという間に1週間経ってしまう。本当は1ヶ月くらいやりたいんですけどね(笑)。それでも皆さん、忙しい中ちゃんと時間を作って参加してくれた。すごく感謝しています。 Q:昂った感情がぶつかるシーンが多いですが、その辺の匙加減は俳優たちとどのように調整されたのでしょうか。 成島:そこは難しい部分ですね。僕みたいなおじいちゃんからすると、ちょっと泣きすぎ喚きすぎかなと思ってしまうのですが(笑)。でも、志尊さんが叫んで崩れ落ちるシーンをリハーサルでやったときに、「あ、この映画はこういうことなんだな」と思いました。いつもだと「もうちょっと押さえて」と言うのですが、今回はそれをやめようと。 ただ、杉咲花さんのシーンは重い内容が続くので、シーンごとに感情を立ていくと全部泣くことになってしまう。シーンによっては「ここは泣かないで我慢しよう」と言ったこともありました。今回は、基本的には彼らをコントロールするのではなく、フルに出た感情の方を大事にしようと思いました。 Q:劇中では、現在と過去が並行して描かれるので、そこでバランスが取れた部分はあったのでしょうか。 成島:そうですね。そこは原作と同じく、現在から物語が始まることが大きな武器になっていました。脚本を作る際に、一度時系列に並び替えてみたのですが、そうすると、生きるのか死ぬのか、最後がどうなるのか分からない流れになってしまう。やはり原作通りに、生きていることが分かるシーンから始まって、「あのときは死んでもおかしくなかったんだよ」と回想する流れがよかった。原作の構成が上手かったおかげですね。
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