鯖江で「小さな産業革命」、インタウンデザイナー新山直広に聞く地場産業の継続と価値創出に必要なこと
WWD:実際に住んで見えた課題は?
新山:課題は大きく2つ。1つ目は自分自身の課題で、町に溶け込む必要があった。今でこそ鯖江は移住者が多いが、地域活性の文脈で移住したのは僕が第一号だった。そして会社や行政から「お前がミスると次が来ないから絶対にミスるな」と脅されていたから、まずはなじもうと必死にがんばった。夏祭りなど地域行事には積極的に参加して、地区の青少年健全協議会のオブザーバーなど声がかかったもの全部に行って信頼を獲得しようとしていた。
WWD:「嫌われないように保守的に動く」と「地域の課題解決に向けた動き」はつながりにくいのでは?
新山:移住後2年くらいは野望や野心があまりなくて、なじむことを一生懸命考えていたが、その中で直面したのが地域の本当の意味の課題だった。つまり2つ目の課題、産業がオワコン過ぎるということ。移住1年目は市からの委託で産業調査を行っていた。越前漆器の職人さんや問屋さんを100件くらい回り、後継者や売り上げ、未来の展望を聞いていた。その9割が「もうやばい、終わりだ。息子に継がしたら一生恨まれるわ」という状態。2年目は越前漆器の売り場調査を行った。結果どこにも売ってなかった。業務用のtoBビジネスは縮小傾向だし、そもそもtoCはなかった。国内の漆器流通上に越前漆器はなく、そもそも売り場自体も縮小している。このままいくと産業が衰退する一方だ、という課題が浮き彫りになった。
その時僕が思ったのは、この町には圧倒的にデザインが必要だということ。他産地を見ると、例えば石川輪島のキリモトは三越日本橋店に直営店を出しているし、富山高岡の鋳物メーカー能作もデザインされた製品を売っている。技術は負けていないのに見せ方や伝え方、デザインが足りていない。僕はそこを手伝う必要があると思った。移住して1年半が経った10年の年末だった。
コミュニティデザインや地域活性をしたくて移住したが、職人さんには「お前は全然わかっていない。鯖江は眼鏡、漆器、繊維とモノ作りの町。モノ作りが元気にならないと地域活性しない」と言われたことも大きかった。