排便事件は日常茶飯事、“殺すぞ”と追いかけられ、スタッフ・家族は精神崩壊寸前「認知症の“介護沼”」
お互いの理解を深め、手を取り合っていきたい
「認知症かどうかにかかわらず、老いていくうえで少しずつできないことが増えていくのは、自然なことだと思うんです。そんな中でも、その方ができることをなるべく長い間維持できるようにサポートしていくのが介護士の仕事です。 ですが、施設入居時に比較的しっかりされていた方のご家族は特に、以前できていたことができなくなることが、受け入れづらいようです」 プロがついているのになぜ認知症の症状が進むのか?と、憤る家族もいるという。 「施設ではできるだけ利用者さんの状態をご家族と共有するようにしています。さらに本やSNSを通じて介護現場の日常を発信していくことで、ご家族や医療従事者の方々、介護に携わる同業者、それぞれの理解が少しでも深まるといいなと思っています」 これまで何度も心が折れそうになりながらも、介護士を続けている畑江さん。介護の仕事に就いたことで、自身の変化も実感しているという。 「以前は人と話すことが苦手で、声も小さかったのですが、自然と恥も照れもなくなって、ずうずうしくなれました(笑)。 街中で困っているお年寄りを見かけた時も、以前の私だったら誰かがどうにかしてくれるだろうとスルーしていましたが、今は迷わず話しかけられます」 今後、高齢者の人口はさらに増加し、労働力が減って先行きが不安な日本。だからこそ、介護に関わる人々にエールを送りたいという。 「今も毎日のように、辞めたいと思うことはあります。でも、“お姉さんが作るみそ汁美味しいよ”なんて、利用者さんからの何げないひと言に癒されることもあって。 これからも大変なことはあるでしょうけど、同業者の仲間たちとお互い頑張っているよね!と励まし合いながら、やっていけたらと思います」 教えてくれたのは……畑江ちか子さん●介護士。高校卒業後、事務職に就いたが、認知症グループホームで祖父の看取りをしてもらったことをきっかけに、介護職へ転身。介護現場の日常を、どこかほっこりできる独自の視点でまとめた著書『気がつけば認知症介護の沼にいた。』が話題に。 取材・文/當間優子