排便事件は日常茶飯事、“殺すぞ”と追いかけられ、スタッフ・家族は精神崩壊寸前「認知症の“介護沼”」
心身共にダメージ大!しんどすぎる日々
「正直言って、本当に後悔しました……。実際に介護の仕事をしてみて、きれい事だけでは通用しないと思い知らされましたね」 きれい事だけじゃない現実。畑江さんの働くグループホームには18人の認知症高齢者が入居していた。 「なにせ全員が認知症ですから、例えば靴下をはいてくださいとお願いしても、はいてくれない。10秒前に言ったことを忘れて同じ話を延々ループして話す人もいれば、突然激怒して暴れ出す人もいます。ひっかかれて血が出るなんて、日常茶飯事です」 褥瘡(じょくそう。いわゆる床ずれ)の処置をしようと、傷口に薬を塗った瞬間、強烈なビンタをされる。食事の介助中、口の中の食べ物を顔に吹きかけられる。汚物が壁に塗りたくられる。さらには、命の危機を感じたことも。 「夜の巡回で居室を確認すると、ある男性の利用者さんがたんすの引き出しにおしっこをしていたんです。トイレヘ行きましょうと声をかけた途端、その方がパイプ椅子を手に、“殺すぞ!!”と叫びながら追いかけてきて。あの時は本当に死ぬかと思いました」 入職後2週間で、辞めようと思ったのも、無理もない。
介護のプロでも難しい親の介護
「介護士も人間ですから、暴言を吐かれれば傷つきますし、暴力を受ければ痛い。ふざけるな!って思ってしまうこともあります。 でも最近は、それでいいと思っているんです。どんな仕事でも、上司からムカつくことを言われたら、心の中でボコボコに殴って、顔はニコニコしているなんて、普通にあることだと思うので」
ただし、そんなふうに割り切れない場合もある。ある時、施設の上司・Mさんが朝から暗い顔をしていたので、どうしたのか尋ねると、Mさんは泣き出してしまった。聞けば半年ほど前から、お母さんに認知症の症状が出始めたという。 Mさんは、介護士である自分の経験があれば、母親ひとりぐらい、面倒を見ていけると思っていたそう。 「でもその前日、お母さんをお風呂に入れている時に、バカ!と怒鳴られ、シャワーでお湯をかけられたことにカッとなり、頬を叩いてしまったそうで。 “利用者さんにはそんなことしたことないのに……”と泣くんです。その時は、なんと言葉をかけたらいいのかわかりませんでした」 介護のスキルや経験がある人でも、自分の親が変わっていくのを受け入れるのは難しい。「他人だからこそ介護できる」というのは、畑江さん自身も介護職を経験して、よくわかるようになった。 「家族間の介護は本当に大変だと思います。私たちは退勤時間がくれば帰宅できますけど、家族は24時間向き合わなければなりませんから。 そんなご家族の方々が、ひと息つける時間をつくるために私たちはいると思っています。お金はかかってしまいますけど、介護サービスを使うのは決して悪いことではないので、どんどん頼ってほしいです」 認知症の高齢者が介護施設に入居する経緯はさまざまだが、虐待がきっかけになるケースも多いという。 「手を上げてしまったというだけでなく、ご飯を出さない、話さない、お風呂に入れないといったネグレクトも含め、虐待は多くあります。 ただそれは、相手を思いやって一生懸命やっていたからこそ、カッとなったり、疲れ果ててしまった末のこともあるのだと、私も介護職員を経験して、身に染みてわかるようになりました」