「ゴールはがんの完全治療」ノーベル賞受賞・本庶佑さんの悲願『がん免疫治療研究』の新拠点...最後の大仕事への思い「天井が見えるかもわからない、サイエンスとはそういうもの」
衰退する基礎研究への「支援」と「理解」を促したい 裁判への思い
本庶さんが裁判という手段に打って出た理由、それは衰退し続ける日本の基礎研究への支援と理解を促したい思いからでした。 (本庶佑さん ※2021年取材)「(免疫治療薬のような)アカデミアの発明は、何十年に1回しか起こらないんですよ。そういうときにアカデミア(大学や研究機関)が正当なリターンをもらえないと。がんばって良いことがあったらそれなりのリターンがあると。(リターンは)個人的にも一部あるかもしれないが、もっと大きなところに、アカデミア全体に。そういう環境を作っておかないと、日本の科学は以前のように国のサポートがある時代ではないですから、(アカデミアも)自立していかなくてはならない」 裁判は双方の主張が対立。本人尋問も行われ、本庶さんも法廷に立ちました。結果、製薬会社側が京都大学に研究を支援する基金を設立し、約230億円を寄付することで和解が成立しました。 (小野薬品工業 相良暁社長 ※当時)「京都大学の志の高い若い研究者の皆さんが精いっぱい研究できる環境が整えられる。我が国の産学連携の新しい形を示すことができた」
交通事故で頸椎を損傷するも、研究への熱は冷めない
裁判と同時に本庶さんが準備を進めていたのが、がん免疫総合研究センターの設立です。 がん免疫治療では薬を投与されても効く人が20%~30%と言われていて、薬の効果を高めるための研究を国内外の施設と共に進めるセンターを設立するのが本庶さんの悲願でした。 ところが2022年2月、本庶さんが運転する車がバスと衝突。この事故で本庶さんは頸椎を損傷します。 長い入院生活のあとリハビリを続けながらリモートで会議をこなし、センターは今年春に完成しました。 今年8月、引っ越しを直前に控えた研究室で話を聞きました。事故で左側の手足が動かしにくい状態です。 (本庶佑さん)「(Q以前より動かしにくいもどかしさは?)それはもう…何というか諦める。しょうがない。だけど前より良くなってきている」 体調に気をつけながら今もリハビリを続けています。研究への熱は全く冷めていません。 (本庶佑さん)「(研究の)ゴールから見たらまだ下。ゴールが、どこが天井か、見えるかどうかもわからない。サイエンスとはそういうものですよ。物理学のように、例えば『核融合』のようなゴールがある。そこにいかにして到達するかという。(がん免疫研究の)ゴールといえば“完全治療”。それが可能かどうかはまだわからない。やってみないと…」 前より表情が柔和になった印象を受ける本庶さん。自ら法廷にも立った裁判については意外なことも口にしました。 (本庶佑さん)「今から考えると、裁判を起こさないようにうまくやればよかったという反省はあります。けんか別れではなく、もう少しいい形で、早い段階でいい握手をしていれば(裁判に)これだけのエネルギーを使わなくてもよかった」