「ゴールはがんの完全治療」ノーベル賞受賞・本庶佑さんの悲願『がん免疫治療研究』の新拠点...最後の大仕事への思い「天井が見えるかもわからない、サイエンスとはそういうもの」
がん治療において手術・放射線・抗がん剤に次いで進化が期待されている『がん免疫治療』。その専門の研究施設「がん免疫総合研究センター」が完成しました。がん免疫治療薬の開発で2018年にノーベル医学生理学賞を受賞した本庶佑さん(82)がセンター長を務めます。そんな本庶さんが“最後の大仕事”として研究センターにかける思いや、がん免疫治療について取材しました。 【画像を見る】本庶さんが若き研究者たちへ贈る言葉
研究センター完成 目標は「2050年までにほぼ全てのがんを制御」
京都大学に完成したがん免疫総合研究センター。11月12日に行われた開所式には本庶佑さん(82)も出席しました。公の場に出るのは2年9か月ぶりです。 センターの目標は「2050年までにほとんど全てのがんを制御できる」こと。免疫研究の世界拠点を目指し、国内外から若い研究者が集まっています。記者会見に臨んだ本庶さんは… (がん免疫総合研究センター 本庶佑センター長)「本日は、建築の開始から3年の歳月を経てようやく完成しました、CCII・がん免疫総合研究センターの開所式を迎えられましたことは、まさに感無量でございます」
話題になった言葉「教科書に書いてあることを信じない」
3か月前の今年8月、大学内にある本庶さんの研究室は、新しい施設への引っ越しを前に、大量の資料や書籍の整理で大忙しでした。 本庶さんはがん治療に革命をもたらした発見で2018年、ノーベル医学生理学賞を受賞しました。受賞が決まった直後の会見では研究者の矜持ともいえる「教科書を疑え」という言葉が話題になりました。 (本庶佑さん ※2018年)「研究者において一番重要なのは、『何か知りたい』『不思議だな』と思う心を大切にすること。教科書に書いてあることを信じない。常に疑いをもって『本当はどうなっているんだろう』という心を大切にする」
がん治療に革命 “免疫を使ってがん細胞を攻撃”
本庶さんの研究グループは、免疫細胞に「PD-1」というブレーキ機能があることを発見。このブレーキを外す薬「オプジーボ」を開発しました。 免疫を使ってがん細胞を攻撃する研究は、100年以上前から注目されながらも成功した例がなく「がん治療に革命をもたらした」と称賛されました。 (本庶佑さん ※2015年取材)「この薬はどのがん種にも効く。(がん治療が)根本的に変わると臨床の医師たちは感じています」 本庶さんの研究室には32年前、ノーベル賞受賞につながった「PD-1」発見を記録したノートが残っています。この発見を機に世界中で がん免疫治療薬の開発が進み、今ではがん治療に欠かせない薬となりました。 その一方で… (本庶佑さん ※2020年)「特許の使用料について、非常に大きな問題が存在して、残念ながら誠意ある回答を得られず、やむなく訴訟を決意するに至った」 2020年、薬の開発を共に進めてきた大阪の製薬会社を提訴。特許使用料の割合をめぐり「企業は研究者に対し充分な対価を支払うべきだ」と、220億円あまりの賠償を求めたのです。