糖尿病患者の白内障手術はなぜ難しいのか【既往症・持病持ちの治療】
【既往症・持病持ちの治療】#2 「白内障は3つのタイプがあります。水晶体の中心の核が濁る核白内障、核の周辺の皮質が濁る皮質白内障、水晶体を包む袋(嚢)の後ろ側がすりガラス状に濁る後嚢下白内障です。加齢による白内障は核白内障や皮質白内障が多い一方、糖尿病患者では後嚢下白内障や皮質白内障が多いとされています」 白内障手術失敗体験談(8)「医療ミスではないのか?」執刀医に尋ねてみた 注意したいのは、後嚢下白内障の方が濁りのスピードが速くなること。1.0だった矯正視力が3カ月ほどで0.3以下になることも珍しくないという。 なぜ糖尿病の人は後嚢下白内障になりやすいのか? 「糖尿病で後嚢下に混濁が起きる原因は、水晶体の赤道部(水晶体は円盤状の形をしていて円盤のへりの部分)にある細胞が異常に増殖して後嚢下に移動し、透明性を失うことにあります。糖尿病では血糖値が高いため、水晶体内にソルビトール(糖アルコールの一種)が蓄積し、細胞や線維が傷つきやすくなります。また、高血糖による酸化ストレスが細胞にダメージを与え、混濁を引き起こします。後嚢下は光を通す上で重要な部位であり、この部分に異常が起きると視力低下やまぶしさ(グレア)が目立ちやすくなります」 ■他の目の合併症を悪化させるケースも 白内障の治療は最終的に手術で行う。嚢を小さく切って濁った水晶体を取り除き、代わりに人工の水晶体(眼内レンズ)を挿入する。年間140万件の白内障手術が行われており安全性は高い。後嚢下白内障手術も他の白内障タイプの手術と比べてとくに難度が高いわけではない。しかし、糖尿病患者の場合、手術に特有のリスクが伴うことを知っておきたい。 「糖尿病は血管や神経に損傷を与えるため、白内障に限らず手術中に出血が増える可能性があります。糖尿病による視神経の損傷や網膜の問題があると、視力の回復が難しくなる。さらに糖尿病患者は感染症にかかりやすく手術後合併症を発症するリスクが高くなることが指摘されています。このため、糖尿病の人が白内障手術をする前には血糖コントロールを改善することが求められます」 糖尿病患者が抱えるリスクはこれだけではない。糖尿病が原因で引き起こしやすい目の合併症は白内障以外に、糖尿病網膜症、ブドウ膜炎、視神経萎縮、血管新生緑内障、外眼筋麻痺などがある。白内障手術は、これらの目の合併症を悪化させる可能性もあるので注意が必要だ。 「かつての白内障手術は長時間かかり、入院を要し、患者の体に負担をかけるものでした。そのため、術後の眼内炎症が糖尿病網膜症に悪影響を与えるケースもありました。現在では、短時間の外来手術が一般的で、小切開で挿入するやわらかいレンズを使用するため炎症リスクも低くなっています。ただし、新生血管の活動性が高い場合は、白内障手術後に血管新生緑内障が増悪する可能性が指摘されており、慎重な判断が求められます」 また、糖尿病の人が白内障手術を受けた後に感染性眼内炎を発症するリスクも高いとされている。糖尿病は目の免疫機能を低下させ、結果的に感染症のリスクを高める。術後眼内炎は目の感染症であり、とくに手術後の発症リスクは高くなる。 白内障手術はいずれ誰もが受ける可能性がある治療。とくに糖尿病の人はその日がくることを意識しながら、普段から血糖コントロールに注意することだ。