税制の大幅要件緩和で中小企業の相続しやすく 今後起こりうる問題点とは?
中小企業の後継者不足問題を解決する「事業承継税制」(非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予・免除制度)の大幅な適用要件緩和が今年1月に始まった。 企業のオーナーが自社株式を大量に持ったまま亡くなってしまうと、その株式に対して相続税がかかる。遺族は相続税の支払いのために、やむをえず廃業するケースが少なくなかった。そこで、中小企業が次世代にバトンタッチしやすいように、相続税と贈与税の納税を猶予するという「事業承継税制」が平成21年に作られた。しかし、納税猶予になる条件がかなり厳しかったため、利用者はあまり多くはなかった。その後、同制度は適用要件緩和を重ねながら、同29年までは発行済み株式総数3分の2にかかる相続税を80%、贈与税を100%まで納税猶予をしていた。今回の改正では、対象株式数の上限が撤廃され、その株式にかかる相続税、贈与税に関する税負担は「実質ゼロ」になるという。
中小企業株式の相続や贈与に伴う課税重圧が軽減
この抜本的改正の必要性を早くから主張していたのが、法務省から事業承継ADR認証を受けている後藤孝典弁護士だ。ADRとは、裁判外紛争解決手続の意味で、裁判所に行かずに中小企業の事業承継に関わる法的紛争を解決する日本で唯一の機関「一般社団法人日本企業再建研究会」の代表理事を務める。 「かねがね私は、中小企業株式は事業の後継者に対する相続税の対象にすべきではない、と主張してきました」 赤字企業再生のための「会社分割」の手法を編み出すなど、中小企業の事業承継にかかわってきた後藤弁護士は次のように語る。 「日本経済の復興を下支えしてきた中小企業の多くは、昭和30年代に株式会社に法人成りしています。年間500万円以上の所得があれば、個人経営よりも法人成りした方が税金が安くなるためです。ところが、そうした中小企業の多くが、後継者の有無にかかわらず、相続税・贈与税の重圧などから事業承継が困難になり、廃業するようになりました。このままでは日本の産業基盤劣化が懸念されてきました」 平成29年10月6日付の日本経済新聞によると、後継者未定の中小企業が127万社もあるという。 「中小企業株式の相続税というのは、所得税の上に重ねられたいわば二重課税です。その不当ともいえる税金が、これまで事業承継の妨げになっていました。中小企業の株式には転売性がありません。つまり、売買に制限があり、実質的に財産性がないにもかかわらず、中小企業株式に相続税が課せられるというおかしな話だったのです」 しかし、今回の改正により、中小企業株式の相続や贈与に伴う課税重圧が、かなり軽減されるはずだと、後藤弁護士は言う。