税制の大幅要件緩和で中小企業の相続しやすく 今後起こりうる問題点とは?
法改正で発生するかもしれない新たな問題とは?
一方で、この法改正に伴い、新たな問題も発生するのではないかと後藤弁護士は指摘する。 「事業の承継がしやすくなったという点では喜ばしいことですが、それまで家業から離れていた子どもや後継者候補同士が、その事業を奪い合うような争いが激化する可能性もあるかもしれません。事業というのは実子でなくても、従業員や他人に継がせるということも可能です。その際の贈与税も実質ゼロになるわけですから、これを利用した詐欺的なのっとり行為まで起こるかもしれません」 事業者としては事業そのものが受け継がれることを願っていても、受け継いだ者がその後で事業者の願いとは全く違う運営をしてしまうことも考えられる。例えば伝統的な技術を絶やして欲しくないといって贈与した事業が、簡単に引き継がれた途端、まるで違う業務内容になってしまう、といったケースが起こる可能性もある。 欧米に比べて、事業承継にまつわる法整備が遅れているという日本。それにもかかわらず、伝統技術など日本人にしかこなせない事業を多く抱えている日本。まだまだ中小企業のスムーズな事業承継には課題が多そうだ。 しかし、せっかく事業承継がしやすくなったのだから、諦めず、弁護士や専門家に相談しながらうまく乗り切ってもらいたい。日本経済を基盤を支える中小企業が生き延びるすべはきっとあるはずだ。 (取材・文・撮影:平松温子) ■後藤孝典(ごとう・たかのり) 弁護士。虎ノ門後藤法律事務所(弁護士法人 虎ノ門国際法律事務所)代表。昭和13年愛知県生まれ。名古屋大学卒業。ハーバードロースクール・リサーチフェロー、筑波大学大学院講師。水俣病事件一株運動を指揮、行政、刑事裁判を手掛ける。日本企業再建研究会、事業承継ADRセンター理事長。著書に『会社分割』(かんき出版)など多数。近著『会社の相続-事業承継のトラブル解決-』(小学館)では、会社相続の際に起こりうる、あるいは実際に起こった様々なトラブルを紹介。物語仕立てになっており、専門的知識がなくてもわかりやすく読むことができる。