【毎日書評】世界一の美食家が大切にしている「美食」を楽しむための心得
安いジャンルのトップに行ってみる
「一回の食事に数万円もお金を出すのはちょっと難しい」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし当然のことながら、高価なものでなければおいしくないというわけではありません。 たとえばカレー、ハンバーガー、ラーメン、うどん、そばなどは、高級食材を使った特殊なものでもなければ、高くても5千円を超えることは少ないはず。そんなに高くなくたって、おいしいものはあるということ。近年は価格が上昇傾向にあるとはいえ、それらのジャンルにおいては日本最高峰のものが5千円以内で食べられるのです。 むしろ著者は、高級ジャンルのなかで安い店に行くくらいなら、安いジャンルで高級な店に行ったほうがいいと考えているそうです。なぜなら、そのジャンルにおける最高峰を知らないと、そのジャンルを知ったとはいえないから。そのジャンルで“まあまあなところ”に行っているだけでは、たいした経験にはならないということです。 誤解を避けるために強調すると、高級ジャンルで安い店の中にも、素晴らしいお店はあります。原価が高い食材を使わず、安い食材を生かして技術で美味しくしている店です。そういうお店は、わざわざ行く価値のある店です。 ただ、高級ジャンルの安い店で多いのが、名ばかりの高級食材を使っているパターンです。どういうことかというと、質の悪いキャビア、フォアグラ、トリュフ、ウニ、鮑、和牛などで見た目だけ豪華にしているのです。 これでは、高級店の劣化版、擬似体験でしかありません。行っても経験にならない安い店というのは、こういう店を指しています。(87ページより) そこで、まずは安いジャンルから始める。そして経済的に余裕が出てきたら、少しずつ高級なジャンルにシフトしていくことが大切だという考え方。安いジャンルを極めることは、将来に向けたトレーニングになるわけです。 そこに、つくり手のどんな想いや考えが込められているのか。どういう食材が使われているのか。香りや口に入れたときの食感はどうか。温度感はどうか……などなど、高いものであれやすいものであれ、せっかくお金を払っているのだから、料理と向き合いながら考えて食べるべきだということ。 わからない食材があれば、自分なりに調べてみることも重要。つきつめていくことで理解は深まり、視野が広がっていくからです。いいかえれば、一品の料理にはそれほどのポテンシャルがあるということなのでしょう。(86ページより) 思考法や新常識、一流料理人の仕事、未来予測など、美食に関するあれこれをさまざまな角度から考察した一冊。興味深く読み進められるだけに、食に関する視野を大きく広げることができそうです。 >>Kindle unlimited、2万冊以上が楽しめる読み放題を体験! 「毎日書評」をもっと読む>> 「毎日書評」をVoicyで聞く>> Source: ダイヤモンド社
印南敦史