「キャラクターを生きている人として描きたい」大人気漫画『不運からの最強男』作画・中林ずん先生の原点とは?【インタビュー】
漫画家、イラストレーターとして活躍する中林ずん先生。ライトノベル原作の漫画『不運からの最強男』(中林ずん:作画、フクフク:原作/スターツ出版)では、不運すぎる人生が一変、異世界への転生で“強運”を得た主人公・ジークベルトの成長物語を描いている。ファンタジーの世界観を具現化する上で大切にしているもの、同作への思いなど、作画を担当している中林ずん先生と担当編集のTさんに伺った。
コミカライズではキャラブレを防ぐため「一人称」を大事に
同作は、事故によって転生した世界で規格外の「幸運値」やケタはずれの魔力、相手の能力をみきわめる「鑑定眼」などを得た主人公・ジークベルトを中心に描かれるファンタジー作品。原作は「小説家になろう」発で、コミックには原作者書き下ろし小説も収録されている。
――原作小説の感想を、伺いたいです。 中林ずんさん(以下、中林):パッと浮かんだ風景、キャラクター同士の関係に惹かれました。重めの世界観が好きなので、自分の趣味にも合っていたんです。私の描きたい世界観を描けると、ワクワクしました。 ――当時、心惹かれたキャラクターは誰でしたか? 中林:主人公・ジークベルトの姉、マリアンネです。幼少期の口調がすごくかわいらしくて、家族との関係にも惹かれました。彼女の存在は、コミカライズを引き受けようと思った動機でもあるんです。ただ、マリアンネだけではなく、一人ひとりのキャラクターの人生を深掘りしながら、読みました。
――コミカライズにあたっては、どのような視点で原作と向き合うのでしょう? 中林:原作の流れを汲んでキャラブレを起こさないように、一人称には特に気をつかっています。ただ、描き続けるにつれて物語の流れが変わってくる場合もあるんです。筋書きはできる限り反映して、キャラクターの人生を大事にしながら手を動かしています。 ――本作では、原作者のフクフクさんと密にやり取りされているのかと思います。 中林:担当編集の方を介することが多いんです。ネームが通ったときには「ここがよかったです」とおっしゃっていただいたと聞き、単行本の発売も「喜んでいらっしゃいました」と聞いたときは、うれしくなりました。原作者の方からの言葉はありがたいですし、質問があれば私も「なぜこうなったのか」と具体的に返します。毎回、フクフクさんはカバー表紙裏の4コマを楽しみにされているようで「ずっと続けてほしい」という声もいただきましたし、思いつきではじめたんですけど、私も続けられればと思っています。 ――担当編集のTさんは、中林ずん先生のイラストによって作品の世界観がどのように広がったとお考えでしょうか? 担当編集・Tさん(以下、編集T):作品の温度が上がったのではないでしょうか。もちろん原作の小説時点で解像度高く、質感を覚える世界観ではあるのですが、中林先生の絵で家族の温もりや、白熱したバトルの熱さ、こみ上げる感情の波など…キャラクターの生活を間近で見ているような、作品に降り立てるような色鮮やかな世界に広げて頂いたと思っています。 また一つ一つのコマの美麗さに加えて、その連なるコマで紡がれるキャラクター達の心揺さぶる物語は、中林先生のキャラクターの動きのリアルさであったり、背景の小物に生活感を出すなど細かな部分まで作り込むイラストレーターとしての一瞬を切り抜く上手さと、流れの中で変化するキャラクターの感情を捉え一人一人の人生として紡いでいく漫画家としての才能がマッチした事によって生まれている気がします。