古木や古民家、古い蔵を活用、「どこにでもある街」にしない街作りを 「御用聞き」だった「工務店」の精神を父から継いで
◆全国大会のトロフィーを逃したのを機に事業構想修士を取得
――社長業と並行し、事業構想大学院大学で事業構想修士を取得していますが、なぜでしょうか。 2018年のEY アントレプレナー・オブ・ザ・イヤー(※起業家を表彰する国際的イベント)に甲信越地区代表で選ばれたのですが、全国大会ではトロフィーをもらえずに悔しい思いをしました。 そこでプレゼンのスキルをパワーアップさせ、それに加え、新規事業の構築の仕方を大学で学びました。 パワーアップのため勉強し直そうと、入学を決意しました。 事業構想大学院では、新しい事業を立ち上げる際に、「プロダクトアウト(作り手の理論優先)」ではなく「マーケットイン(顧客の視点優先)」が大切だと学び、古木にとらわれずに事業を発想するという課題を与えられました。 ビジネスの「ツボ」を習得し、ビジネスがクリアに見えるようになったと思います。 ――2021年には新規サービスも開始されました。 事業構想大学院での学びを生かし、飲食店の料理人と家主を繋ぐ開業マッチングサービス「山翠舎オアシス」を立ち上げました。 2021年4月21日時点では、当社が設計・施工を手がけてきた約500件の店舗は、その8割強が現在も休廃業せずに存続しています。 そこで、料理人に寄り添う視点での、課題解決が商売になるのではないかとひらめいたのです。 保証金などの初期費用を山翠舎が負担したり、物件を借りる際のサポート、事業計画書作成を支援したりするなど、多様なサービスを提供しています。
◆地元密着の工務店ならではの「御用聞き」的な役割が事業のベースに
――山翠舎は世代ごとに新規事業を開始されていますね。 初代の祖父が木工所として創業し、2代目の父は工務店として施工業を、そして3代目の私が設計・施工を始めました。 下請けではなく元請けにと、どんどん上流を目指し、今も遡っている最中です。 父の代は地域に密着している工務店として、御用聞き的な役割も担っていました。 ビジネスライクなやり取りだけでなく、親身になって顧客の相談に乗ることで人間関係を構築し、何年後、何十年後かの仕事に結果的に結びつくことを教えてもらいました。 この考えは、私も事業のベースとして継承しています。 ――これからの山翠舎の目指すところは? 今よりもより簡単に飲食店を開業したり、店舗展開などをしやすい環境をつくることをしたいです。 建築をサービス業ととらえ、携わった方々へのお店の集客力を持つようなりたい。 小さな会社の集まりでも、皆が集まって、知恵経験などをシェアしながら古木を使ったお店が繁盛するサーキュラーなシステムをつくっていきたいです。 そのために、具体的には、遊休不動産のデベロッパーになりたいと考えています。 山翠舎は現在、長野県内で古民家のリーシング(※商業用不動産の賃貸を仲介する業務)を行っています。 古材買い取り販売の事業を進めていると、古い空き家や蔵の情報が集まってきます。 「街の資源」としてリーシングし、町おこしにつなげたいと考えています。 今、長野市の善光寺の近くで、空き家の古民家に様々な事業者を誘致しています。 一例として、使われていない蔵を活かした「信州門前ベーカリー 蔵」というパン屋の開業に携わりました。 どこの街にもあるチェーン店ではなく、地域の特色を持った店舗を呼び込もうと思っています。 空き家のままだったら価値がないけれど、リーシングによって人が集まり、経済が活性化して、自治体も嬉しい。 おしゃれなお店ができたら街も楽しくなる。 そういった事業を今、善光寺と小諸で展開中です。 所有者よし、利用者よし、事業者よし、地域よし、社会よし、で、当社ではこれを「三方よし」ならぬ「全方よし」としています。 木材建築を起点に、皆が幸せになれる町おこしをしていきたいですね。