「自衛隊は軍隊」18歳高校生が違憲問う 名簿提供めぐり奈良で初の国賠訴訟
教育的配慮は有名無実化
今回特筆すべきは、新しい三つの論点だ。 第一は、原告が提供時に未成年者だった点だ。高校卒業予定者の求人は通常、職業安定法に基づき、家庭訪問は禁止だが、自衛官の募集は自衛隊法が根拠で、職安法は適用されない。それでも教育的配慮から旧文部省と旧労働省は歯止めをかけていた。原告側が証拠提出した両省の旧防衛庁への口頭申し入れ(1982年)によると「教育的観点から民間事業所と同様に、学校を通じて行われるのが適当。募集活動が行き過ぎないよう願いたい」と求めた。旧防衛庁は「多くの学校で協力を断られ、家庭訪問等で直接個々に広報せざるを得ないのが実情」とし、募集活動が行き過ぎないよう「一層留意」すると回答。旧防衛庁はこのやり取りを通達として何度も発出していた。 第二は、自衛隊が軍隊、自衛官は兵士である点、そして、自衛隊の違憲性が集団的自衛権の行使容認(2014年)、新安保法制成立(15年)、安保3文書改定(22年)により明白になったという点だ。証拠提出した幹部隊員用の「服務ハンドブック」(09度版)が軍隊の本質を示す。部下たちの「積極的な服従の習性を育成する」(6頁)、「自衛隊はその規律の基礎を戦闘におく」(9頁)、「戦闘の規律から発して、すべて平時の規律が作られていることが一般の社会の規律とは異なっている」(13頁)。 弁護団の佐藤博文弁護士(札幌)は長年、全国の隊員のいじめやセクハラなどの人権相談にのってきた。「自衛官は軍人なのに、警察や消防と同じような公務員だと思って就職している。命をかける『賭命義務』があり、軍隊だから24時間服務、命令への服従が絶対でハラスメントが多い。退職したいという相談が多い。国家公務員の4割、25万人弱が自衛官。予算規模で世界5位の巨大な軍隊なのに、国民は実態を知らず、治外法権化している」。訴状でこう説いた。「自衛隊は憲法9条2項で不保持を定めた戦力=軍隊であるか否かが長年争われ、軍隊性を否定する政府や自衛隊がその実態を隠し過小に見せてきたため、リアルな実態が国民に可視化されなかった」 第三の論点は「沈黙の自由」だ。自衛隊へ情報提供を希望しない人が自治体に「除外申請」する制度があり、奈良市も設けている。救済策と思われたが、原告側は非暴力、反戦平和、反自衛隊の思想をあぶり出し、憲法19条が保障する「思想良心の自由」の一つ「沈黙の自由」を侵害する違憲の制度だと指摘。自衛隊が長年「反自衛隊」の市民の情報を集め、リスト化してきた事実からこの情報を使って「監視を始める蓋然性が高い」とした。