「自衛隊は軍隊」18歳高校生が違憲問う 名簿提供めぐり奈良で初の国賠訴訟
自衛隊は軍隊だ、同意なしに個人情報を渡すのは違法で違憲だ──。提供時、未成年だった奈良市の18歳の高校生が、市と国を相手取り、国家賠償請求訴訟に踏み切った。プライバシー侵害に加え、自衛隊の違憲性を問う。
「争いごとは話し合いで解決すべきで、武器を持ってたたかう自衛隊に参加するつもりはない」。3月29日の提訴後、こんなコメントを出した18歳の若者の思いは、奈良市が無断で自衛隊に渡した個人情報により無視された。憲法13条が保障するプライバシー権などを侵害されたとして、市と国に対して慰謝料など110万円を求め奈良地裁へ提訴した。原告弁護団によると自衛隊に名簿提供された当事者の国賠訴訟は全国初という。
「勧誘はがき、怖いな」
訴状によると、市は昨年2月、住民基本台帳から、17歳の高校2年生だった原告の氏名、住所、生年月日、性別の四つの個人情報を、募集活動を行なう自衛隊奈良地方協力本部(以下、「奈良地本」)に文書で提供した。市が提供した個人情報は、昨年度に22歳と18歳になる計6419人分。提供時、原告を含む18歳となる2993人は全員が16~17歳の未成年だった。 原告の自宅には昨年7月、自衛隊奈良地本から「今年度高等学校をご卒業予定の皆さまへ」と題した郵便はがきが届いた。「18歳を迎えられ、高校等卒業後の進路を検討されている方及び保護者様に自衛官等の募集・採用について御案内させていただきた」い。就職の勧誘を受けた時も原告は17歳の未成年だった。 原告は、誹謗中傷を避けるため、身元を明かさず、記者会見も出られなかった。代わりに、提訴を決意した思いをコメントで発表した。「勧誘はがきが届いたのはやっぱり怖いなと思う。自分と同じような若者の個人情報が自衛隊に提供されているのはおかしい」 住民基本台帳法(住基法)上、自衛隊への個人情報提供を根拠づける明文規定がないことは、国も認めている。法律家から「自衛隊が個人情報の提供を求める法的根拠はなく、市町村が『閲覧』を超えて積極的に『提供』するのは違法の疑いがある」と指摘されるゆえんだ。国が根拠とするのは、市町村長が自衛官募集で、「事務の一部を行う」と定めた自衛隊法97条1項と、防衛大臣が市町村長に「募集に必要な資料の提出を求めることができる」と定めた同法施行令120条。防衛省と総務省は連名で2021年2月、自治体に対し、同法と同施行令に基づく個人4情報の「資料の提出」は住基法上、問題ないとする通知を出した。 奈良市はこれを受け、それまで自衛隊が閲覧し、書き写していた個人4情報を昨年2月、市が文書で提供する方式に切り替えた。市は法的根拠として、国が「法令で定める事務」を行なうため、個人4情報の写しを「閲覧」できると定めた住基法11条1項をあげた(昨年4月の市議会答弁)。 これに対し原告側は、住基法11条1項は「閲覧」についての定めで、紙で提供する根拠にはできないと指摘。①未熟で要保護性が高い未成年に②人生で重要な職業選択に関わる就職勧誘目的で③提供先が違憲の疑いが指摘される自衛隊なのに④本人、親権者に何ら事前説明がなく同意もとっていないと問題視した。自衛隊法97条が個人情報の取得に一切触れていないのに、国会の審議を経ず閣議決定だけで決まる下位規範の同法施行令120条で、広範な個人情報取得を認める解釈は「法の授権の限界を超える」。憲法上保障された人権を制約する根拠になりえないとの主張だ。