リモートワークの生産性は実は低かった。オフィスの“Hotelification”はリモートワークに慣れた従業員を呼び戻せるか?
「ワークリゾート」を念頭に置いてできた「スプリングライン」
Hotelificationを牽引するのは、Google、Amazon、ロレアルといった、世界的に名を知られた大企業だ。従業員のために、自社ビル内にホテル張りのアメニティを揃えている。 しかし最近は英国、米国を中心に、Hotelificationを済ませたオフィススペースを用意し、テナントを募集しているケースも見られるようになった。 例えば、米国カリフォルニア州のメンローパークにある、2万6000m2のコンプレックスビルディング「スプリングライン」。シリコンバレーの中心部に新たなエネルギーをもたらしていると評判だ。スタートアップや、成長しつつある企業向けのクリエイティブなオフィススペースは、「ワークリゾート」を念頭にデザインされた。 そのテナントの1つは、法律事務所のキルパトリック・タウンゼント&ストックトンだ。同事務所の旧オフィスの立地やスペースの割り当てに不満があったが、オフィスマネージングパートナーであるジョー・ピーターセン氏が『ニューヨーク・タイムズ』紙に語ったところによれば、「スプリングライン」に入居し、「コロナ後の世界に向けてオフィスを再考する」ことができたそうだ。現オフィスは、1フロアの約900平方メートルを占め、交流やコラボレーションのためのスペースや、多岐にわたる用途に対応するスペースを手に入れることができたという。 同事務所には、約22人の弁護士が在籍しており、どの日も約半数がオフィスで働いているという。出勤率は、同業他社よりも格段にいいそうだ。「スプリングライン」は活気があり、人を引き付ける魅力があると、ピーターセン氏は考える。
デザインにAIを取り入れたところもある、個性豊かな「ワークリゾート」
「スプリングライン」のほかにも注目されている「ワークリゾート」は少なくない。 ウェルネスを重視したスペースが豊富なところもある。約22万平方メートルのオフィススペースを提供する米国シカゴの「ザ・マート」では、プライベートスピンクラス、メディテーション用ポッド、赤外線サウナなどが設けられ、栄養士が常駐する。ほかにも、テナント用のラウンジ、アルコールを飲めるスペースもある。 英国ロンドンの通勤エリアに位置する62階建ての「22ビショップスゲート」には、25の企業が入居している。同じビル内に高級レストラン、ロッカー、1,000台の自転車収容スペース、自転車修理店、フィットネス施設が設けられている。 来年春着工予定なのは、英国ロンドンのカナダウォーターにある「トゥー・ドックサイド」。この約3万2,000平方メートルの複合施設は「ワークリゾート」として設計され、ホスピタリティを重視したデザインとモダンなオフィス機能の両方を兼ね備えている。オフィスビルは2棟ある。 リゾートのような雰囲気の中、働くだけでなく、柔軟性、創造性、ウェルネスを取り入れた、生き生きとした毎日を送れるよう配慮したスペースは、AIによってデザインされた。広大なテラスや屋外スペースを中心に、仕事と自然が調和し、個々人の働き方を重視したオフィスで、屋内外を問わずさまざまな環境で働くことが可能だ。「ラップトップバー」、コワーキングスペースやプライベートワーキングスペースが設けられる予定で、上層階のテラスは、屋外ミーティング用に整備される。 アクティビティ・センターは、ジム、スチームルーム、サウナなどを備え、バランスの取れたライフスタイルを促進。ロビー内には厳選された食材を提供するマーケットも設けられ、コミュニティハブを目指す。「ソーシャル・ペントハウス」では、カクテルタイムなどイベントが催され、交流を図れるよう配慮されている。