いすゞジェミニ・クーペZZ(昭和54/1979年11月発売・PF60型)【昭和の名車・完全版ダイジェスト108】
GMのグローバルカー戦略により生まれた名車、オペル・カデットGTEと共用シャシで個性的な走り
この連載では、昭和30年~55年(1955年~1980年)までに発売され、名車と呼ばれるクルマたちを詳細に紹介しよう。その第108回目は、コンパクトスポーツの魅力をワールドワイドで展開した、いすゞジェミニ・クーペZZの登場だ。(現在販売中のMOOK「昭和の名車・完全版Volume.1」より) 【写真はこちら】5137mmという全長と、最高出力1070ps/最大トルク1150Nmというパワースペック以外の詳細は公表されていない。(全8枚)
昭和54(1979)年発売のいすゞ・ジェミニZZは、 GMのグローバルカー(世界戦略車)構想の一環として生まれたクルマだ。昭和49(1974)年に誕生したジェミニは、当時の西ドイツではオペルブランドとして、またイギリスではボグゾールブランドと、前後して世界各国での販売が開始されたモデルであった。 画像: スマートな2ドアクーペはスポーティで人気が高かった。基本デザインは先代となるPF50ジェミニから引き継いだものだ。トランクリッドのZZ/Rに憧れた人も多かったのだ。 そのジェミニに「ZZ(ダブルズィー)」と呼ばれるスポーツグレードが追加されたのはフェイスリフトが行われた昭和54(1979)年のことで、車両型式がPF50からPF60になって事実上のフルモデルチェンジとも言える。 エクステリアはそれまでの逆スラントノーズから一般的なスラントノーズとなる。また、角目のPF50がファッショナブルだった印象に対して、丸目2灯ヘッドランプで精悍な面構えとなった(昭和55年のフェイスリフトでは再び角目に変更となっている)。 ボディのシルエットは基本的に引き継ぐが、まとまり感のある流れるようなデザインはやはりヨーロッパ車的なもので支持を得た。ZZに設定されたボディはクーペとセダンの2種類。いずれも端正なデザインの中にスポーティな躍動感を感じさせるスタイルであった。グレードは、スポーティ装備のR、豪華仕様のTが選べた。昭和55(1980)年3月には超豪華版のLも登場した。 パワーユニットを見ていくと、G180型の1817ccの直列4気筒DOHC8バルブエンジンは、電子制御燃料噴射の採用により、130ps/6400rpmという魅力的な最高出力値を得ていた。電子制御燃料噴射(ECGI)の採用は、もちろん排出ガス規制をクリアするための策だった。フラットなトルク特性を持ち、中低速域での強靭な粘りが特徴だった。 メカニズム面では、さらにクロスレシオの5速MTがオプションで装備される(後に標準装備)。これは1、2、 3速がローギアードに設定された高回転持続型となっていた。シフトフィールもショートストロークでカチッカチッと決まるもので、頻繁にシフトチェンジする楽しみを増していた。 サスペンション形式はフロントにダブルウイッシュボーン、リアにトルクチューブ付き3リンクリジッドをPF50から引き継ぐが、エンジンの出力向上に伴ってよりハードなものとなった。 ただ、フロントのダブルウイッシュボーンはともかく、リアのトルクチューブ付き3リンクリジッドは、当時主力となりつつあった4リンク式リジッドに比べると設計も古くクセの強いものだった。とくに急加速をするとトルクチューブがボディのフロア後部を押し上げてしまい、トラクションが逃げてしまったり、ドタドタと打撃音を発生することもあったのは難点だ。 ブレーキは4輪ディスクブレーキも新たに採用され、動力性能に見合った制動力が与えられた。 その他にもオイルクーラー、そしてリミテッドスリップデフのオプション設定などもあり、その戦闘力を高めるのに貢献した。 ジェミニZZは、ラリーシーンに数多く持ち込まれて活躍した。1980年に参戦したZZ/R(この車両は4ドアセダン)はデビュー戦から圧倒的な速さを見せて全日本チャンピオンを獲得している。ちなみに重量配分的に考えると2ドアクーペより4ドアセダンの方が、後ろが重い分良好という話しもあった。 G180ユニットはDOHCヘッドが搭載されたこともあってそれなりに重量級であり、搭載位置もフロントオーバーハングから大きくはみ出るような位置に搭載されていたので、クーペではアンダーステアが目立つ結果となったのだろう。 そういう意味では同世代のTE71トレノ/レビンのようにアンダーパワーでもコーナーで稼ぐというよりは130psのパワーを生かして走るクルマと言えたのだ。さらに昭和60(1985)年3月の最終後期型ではエンジンのピストンやコンロッドを熟練技術者の手でバランス取りした「ブラックヘッド」エンジンが搭載され特別感を増している。 ジェミニがRWDの駆動方式を採用したのは、 PF50とPF60だけだった。その後、惜しまれながらもFWD化することになる。