大河ドラマ『光る君へ』脚本家・大石静「2話目を書き終えた頃に夫が他界。介護と仕事の両立は困難だったが、45年間で一番優しく接した時間だった」
年が明けてスタートした『光る君へ』。大石静さんが大河ドラマの脚本を手がけるのは、『功名が辻』以来、18年ぶりとなる。わかっていることの少ない紫式部と平安時代をテーマに、大石さんの描く1000年前の物語が幕を開けた(構成=山田真理 撮影=大河内禎) 【写真】紫式部として『源氏物語』を書くことになるまひろ(吉高由里子)が辿る道は… * * * * * * * ◆本名も不明の人物を題材に 『光る君へ』の放送はまだ始まったばかりですが、この仕事にとりかかってすでに2年半が過ぎました。大河ドラマであってもほかのドラマであっても仕事の厳しさに変わりはないですが、なにしろおよそ50話となると、普通の連続ドラマの5クール分、ぶっ通しで書かなければいけません。 いまは29話目を書き上げたところですけど、最終話を書き上げるまでホッとするときは訪れないでしょうね。 2021年の春ごろにお話をいただき、「紫式部を描く」というテーマを聞いて少し悩みました。平安時代に関する知識は、歴史の授業で学んだ程度。私でもピンとくるような有名な人物や事件がまったくないのです。『源氏物語』という題名は有名ですが読んだこともないし、紫式部は本名も生没年も定かではありません。 紫式部の父親は漢学に長けたインテリで、母はどうやら早くに亡くなっている。貧しいながら文化的レベルの高い家庭で育ち、できの悪い弟がいた。父の赴任で越前に行き、京に戻って結婚し、3年に満たない結婚生活で夫と死別。『源氏物語』を書くにあたっては藤原道長のバックアップがあったと思われる。 わかっているのはこのくらいです。なので脚本家として自由に想像を膨らませることができるのではないかと思い、この仕事を受けようと決意しました。
道長との関係については、『源氏物語』を書く前に「知り合いではなかった」という明確な記録がない以上、知り合っていた可能性もある。2人が少年少女期に出会っていたら、相手が親の仇だったら……などと考えているうちに物語が動き始めました。 皆さんもご存じの通り、紫式部は1000年以上読み継がれる物語を生み出した人。1964年にユネスコが「世界の偉人」を表彰した際、日本人でただ一人選ばれたのが紫式部です。 日本では多くの人が、『源氏物語』を「男女が寝たり起きたりしているだけのロマンス小説」と捉えていますが(笑)、世界でいまも研究が重ねられるほど評価されているのは、時の政権批判や文学論、下級貴族の娘として苦労するなかで培われた人生哲学などが、物語の端々に盛り込まれているからでしょう。 勉強や取材を重ねるうちに感じた彼女の魅力やこの時代の面白さを、1年かけて描いていこうと思います。
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