ビル・ゲイツ、オバマ元大統領が絶賛 世界的ベストセラー『FACTFULNESS』に学ぶ、データに基づく批判的思考とは?
■ 「ドラマチックすぎる世界の見方」から一歩離れるには? では、一歩立ち止まるとはどういうことなのだろうか? それは、頭の中に「悪くなっている」と「良くなっている」という2つの考え方を同時に持つことだ、と著者のハンス・ロスリングは言う。 実態として悪いことはたくさんあるだろう。しかし、それでも全てが悪化しているわけではない。良くなっていることもあるのだ。 「第2章 ネガティブ本能」には、こういう一節がある。「『状況が良くなっている』と言うのと、『万事オーライ、心配ご無用』と言うのは同じ意味だろうか? もちろん同じわけがない。『悪い』と『良くなっている」の、どちらかひとつを選ぶべきだろうか? もちろんそんなことはない。両方選べばいい。」 実態として、悪いニュースほど広まりやすいし、心に残りやすい。だから、一歩立ち止まって考えるためには、意図して「良くなっている」という事実にも目を向けることが必要だ。 「若手のやる気がなくなっている!」と悲観的に叫ぶ人の横で、あえてやる気に満ちた若手のことに思いをはせてみるのだ。 その時、組織は「ドラマチックすぎる世界の見方」から一歩離れて、立ち止まることができる。そして、バランスの取れた議論を始めることができるのだ。 残念ながら、世界はそんなに単純ではない。何か一つの理由によって世界は劇的に悪くもならないし、良くもならない。善と悪は共存する。世界は悲しいくらいに複雑だ。もし単純なロジックでこの社会や組織が変わると思ってしまったら、そんな考えを思いついてしまった自分を疑ってみよう。 「訳者あとがき」によれば、共著者のアンナ・ロスリングはこう語っている。 「『ファクトフルネス』を通じて人々に伝えたいのは、情報を批判的に見ることも大事だけれど、自分自身を批判的に見ることも大事だということ」 そう、『FACTFULNESS』は、どうしてもドラマチックに物事を考えてしまう癖を持って生まれてしまった自分自身に対する批判書なのだ。何かを悲観的に捉えて、単純なストーリーを大きな声で訴えかけたくなった時。そんな自分を、自分自身はどこまで信頼できるのだろうか? 一歩立ち止まって、自分にそう問いかけてほしい。実は、あなたの周りの世界はそんなに悪くなってないかもしれないのだから。
荒木 博行