変動金利の引き上げ時に銀行は足並みをそろえる? 業界の事情に詳しい銀行員が解説
足並みはそろえていないのに、なぜ同じような金利になるのか?
採算面以外でも、結局同じような金利になってしまう理由としてもうひとつ、銀行業界の事情を少しだけお話しします。 示し合わせはしないが「情報交換」はあるかも 銀行の内輪話を一つ紹介します。 これは、後輩(私が勤務する銀行の経営中枢に近い優秀な人物)と住宅ローン金利について語り合ったときに聞いた話です。 〈以下、私(加藤)と後輩の会話から〉 加藤「住宅ローンの金利、たとえば毎月発表する固定金利の新規金利などは、銀行間で示し合わせることはあるの?」 後輩「いいえ、示し合わせることはありません。仮にそんなことがあれば、独占禁止法などに抵触するおそれもありますので、表立っても水面下でも金利を横並びにするような話し合いはありませんよ。同業として定期的な会合のようなものはありますが、あくまで情報交換などの場であって、銀行が一堂に集まって金利に関する会議をするようなことはないですよ」 加藤「でも、急激に高い金利を出すとか、その逆で超低金利を打ち出すなどの場合でも、銀行間で打ち合わせなどはしないの?」 後輩「はい、やはり打ち合わせなどはしません。これも、歩調を合わせるのはマズいからです。でも、変動金利で返済中のお客さまの金利が一斉に引き上げになるような事態では、もしかしたら、『どの銀行が先陣を切るか?』などの議論はあるかもしれませんね」 銀行業界では、大きな動き(新しい手数料の導入など)がある場合、まずメガバンクから始まって地方銀行、信金・信組が続くといった流れになるのが一般的です。 たとえば「未利用口座手数料(一定期間入出金の動きがなく残高も1万円未満などの口座は手数料がかかるようになった)」の導入では、やはりまずメガバンクから始まり、地銀や信金などがあとに続きました。また最近の話題としては、日銀の金利政策見直しを受けての普通預金金利の引き上げも、メガバンクから始まり、地銀などに波及していることでもわかります。 今後、変動金利の一斉引き上げなどが現実になった場合も、おそらくメガバンクが先に発表すると思われますが(個人的見解です)、その際はどこか特定の銀行だけに非難が集中しないようにするなど、「(横並びの)調整」はあるかもしれません。たとえば「変動金利の引き上げを、全金融機関で同日同時刻に一斉発表」といったシチュエーションも考えられます。先日、大手銀行は預金金利を引き上げましたが、ほぼ同時、一斉に引き上げました。 「ウチは他とは違う!」という銀行が出てくるかも もう一つ考えられる可能性として、「よそはよそ、うちはうち」と独自路線の銀行も出てくることも考えられます。住宅ローンを重要なビジネスととらえている金融機関では、他が引き上げをしても、自社の金利は引き上げずに据え置くかもしれません。その結果「収益が悪化したとしても、それに見合うだけの新規ローンを獲得すればいい」という理屈もあるのです。したがって『当行は、変動金利は上げません!」といった戦略を持つ銀行も、もしかしたら出てくるかもしれません。