YOSHIROTTENが語る、ストーンアイランドとの広告起用秘話から、初の公立美術館での個展まで
イタリア発ストーンアイランドの2024-25年秋冬のキャンペーンビジュアルに被写体として登場するYOSHIROTTEN。作り手としてブランドに共振すること、また10月に開かれる個展について訊く。
俳優のジェイソン・ステイサムにUKヒップホップシーンを代表する存在となったミュージシャンのデイヴ、そしてディオール メンズのクリエティブ・ディレクターであるキム・ジョーンズ。イタリア発のファションブランド、ストーンアイランドは、2024年春夏シーズンより、いわゆるファションモデルではなく、俳優やミュージシャン、建築家、振付師、アスリートなど、ブランドのものづくりに共感する“コミュニティメンバー”を広告キャンペーンビジュアルの被写体に起用してきた。 【写真の記事を読む】YOSHIROTTENが語る、ストーンアイランドとの広告起用秘話から、初の公立美術館での個展まで
駐車場でスカウトされたんです
2024-25年秋冬のキャンペーンには、これから順次発表される錚々たる面子に混じり、唯一の日本人としてアートディレクターのYOSHIROTTEN(ヨシロットン)が名を連ねている。アートディレクターとしてミュージシャンやファッションブランドをクライアントに持ち、近年はアーティストとしても注目を集めるYOSHIROTTENは、どのようなきっかけでキャペーンの被写体を務めることになったのか──。そう聞くと、「ロサンゼルスの駐車場でスカウトされたんです」と答えた。 「以前、ストーンアイランドからアプローチがあり、何か一緒にできることがあるといいなと思っていました。それからずっとリレーションを持ち続けていました。今年2月、ロサンゼルスで開かれたストーンアイランドのアーカイブ展『Selected Works '982-'024』を見に行ったんです。そのあと、会場の駐車場でイタリア本国のマーケティング担当者を紹介されて、いろいろと話をしていたんですね。その会話のなかで僕が“このあとロンドンに行く予定なんです”と言ったら、“来週ちょうどロンドンで撮影するからと、来ませんか?”と。その場で決まりました。ちょうどアーカイブ展を見て、ブランドのものづくりに共感も増し、資料を見たらモデルになる方のランナップも豪華。僕としてもこの偶然を楽しんでみようと」 『GQ JAPAN』は、YOSHIROTTENに独占インタビュー。その広告ビジュアルの撮影秘話から、自身とストーンアイランドのものづくりの共通点、また10月より鹿児島で開かれるYOSHIROTTENの公共美術館では初の個展について、話を訊いた。 共振する素材・技術への探究心 ──ロンドンでのキャンペーンビジュアルの撮影で印象に残ったことは? 僕はアートディレクションの仕事もしているので、ワールドワイドなキャンペーンがどのような過程で作られているのかに興味がありました。特に、フォトグラファーがデヴィッド・シムズだったこともワクワクしたポイントで、実際に、その独特の撮影方法が印象的でしたね。というのも、デヴィッド本人はカメラではなく、ライトを手に持っていて、彼がライトを被写体にあてていくのに合わせて、アシスタントがカメラのシャッターを切っていく。だから、もし顔を知らない人がその現場を見たら、どっちがデヴィッドかわからない(笑)。 ──撮影現場に用意された秋冬のアイテムでは、特にフリースのジャケットが気になったそうですね。 撮影現場ではいくつかかのルックが用意さらていました。“これ、着たいんだよね”とその時に着ていたフリースのジャケットをリクエストしたものの、それは着用できず、最終的にイエローの服になりました。普段自分では選ばないようなスタイルだったので新鮮でした。 ──今回キャンペーンに参加するきっかけになった、LAでのアーカイブ展『Selected Works '982-'024』。本展を見た感想は? 古いものでは1982年のものから、100点近いアーカイブピースが展示されていて、見せ方としてのインスタレーションも素晴らしかったし、一点一点のアーカイブピースもよく見られて、歴代のプロダクト、ストーンアイランドのクラフツマンシップを知るいい展覧会だったと思いました。 そのなかで、僕が惹かれたのは、テクニカルな素材使いですね。例えば、ステンレスやコッパーなど普通は洋服には使わない金属などがマテリアルとして使われていたり、約40年のブランドの歴史のなかでさまざまな素材の可能性が探求されている。そこに特に共感するものがありましたね。というのも、僕自身、アート作品においては、メタル素材や断熱材などを “宇宙に持っていける素材”を作品のマテリアルにしているところがあるんです。2018年に行った『FUTURE NATURE』展は、“可視光線ではない、宇宙にある無数の光を使えば、目に見えなかったものが見えてくるのでは”という仮説をもとに、僕がイメージを膨らませ、地球の情報を作品に託し、宇宙に送り届けるというコンセプトでアートピースを制作していったのですが、そこでも、人工衛星に使われるハニカム構造上のアルミニウムをカンバスにして絵を描いたり、アルミニウムと耐熱性のある布を掛け合わせた新しい素材でオブジェを作ったりしました。また、派生するものとしては、ソーラーパネルの家具を作ってみたり、JAXAなどにも機材提供している金属工場に依頼してアート作品の素材から作ってみたりもしています。 ──そういった素材への関心の、もうひとつ奥にある“宇宙”への関心は、いつからあるものですか? 宇宙への関心は、幼少期からずっとありますね。ただ『FUTURE NATURE』展で作品を作っている時に気がついたのですが、宇宙よりも地球への関心の方が強いのかもしれません。地球の美しいものをアートで表現し、それを宇宙に送り届ける──いわば、地球の美しさを宇宙に伝える案内人になりたいな、と。そういう意味で、自分のアート作品が、“宇宙に持っていける素材”でできていることは、僕にとって重要なこと。 ──このスタジオにも、宇宙の本だけでなく、地球の神秘、人類の神秘ともいえるペドログラフ(岩石や洞窟内に刻まれた文字や意匠)の本もありますね。 ペドログラフは、個人的に研究していて、実際に見に行ったりもしています。世界だけでなく、日本各地でもいろんなとこで発見されていているんです。また、ペトログラフは、いかに人間は情報を記号化し、伝達しようとしてきたかという点で、グラフィックをやっている身として、とても興味深いものがあります。また、そういった先人の知恵を受け継ぐような気持ちで、僕自身、作品で使っていたりもします。 公共の美術館での初個展 ──鹿児島県の霧島アートの森で、10月から展覧会がはじまります。タイトルは『FUTURE NATURE Ⅱ in Kagoshima』。2018年の「フューチャーネイチャー」の新しい展開でしょうか。 鹿児島は僕の地元。ただ、霧島はまた特別で、縄文遺跡が発見されたり、天孫降臨の地と言われている高千穂があって、その土地にいくつかの神話が残されていたりします。霧島自体も火山地帯で、山は霧がかっていて、そこにある光や植物も他とは違う。そういう場所、自然環境からインスピレーションを受けた作品も置く予定です。 霧島アートの森は、ドナルド・ジャッドやジェームズ・タレル、アニッシュ・カプーア、イサムノグチなどを所蔵するすごいミュージアムで、野外の彫刻作品群も圧巻です。そして、建物自体は広大な自然の中に建てられた、宇宙船みたいな美術館なんですね。だから、宇宙船的なイメージで展示を考えています。宇宙船がたどり着いて、鹿児島を調査し、“地球ってこんなに美しいものだったんだ”って、宇宙から来た人が見つけたものを宇宙船に詰め込んで持ち帰る寸前に、そこで展覧会が開かれた、みたいな。 また、僕にとって公共の美術館での個展は今回が初めて。僕自身ができるだけ多くの人に作品を触れてほしい、そこで鑑賞者のなかで何か良い作用が生まれたり、新しい気づきになるようなものを提供したいとかんがえてきました。だから、公共の美術館で作品を見せるということは一つの目標であり、今回それが実現するのはすごく嬉しいことです。 ──宿泊施設も構想していると聞きましたが。 《SUN》というシリーズがあって、それを鑑賞体験するための宿泊施設「SUN HOUSE」ですね。陽が沈んでからチェックインする予定で、陽が明けるまでは空間の中で、その場所でしかできない《SUN》の作品体験をしてもらって、翌日はその場所の本当の自然の美しさを体感してもらえるような形を考えています。現在、僕がイメージしたモデルを、実際に設計してもらっていて、予算や施工期間も具体的になっている状態。あとはどこと組んでやれるかというところですね。日本でも海外でもいいのですが、最初は日本がいいかなと。興味がある方は是非、声をかけていただければ。 ──YOSHIROTTENさんにとって「美しさ」は、そういった自然や現象に由来するもの? 例えば、大きくて圧倒的な空や海、山。たしかにそういったものに惹かれますね。コロナ下の際、日本全国の誰も知らないような知らない地域を旅して回っていた時期があって。すごく美しい景色、さらに言えば美味しいご飯や面白い人が存在するのに、意外と知られていない場所がたくさんある。そういった場所に「SUN HOUSE」なり、自分の作品が置かれたら素敵だなと。その土地での美しい体験が深まるような。 ──霧島アートの森での個展でもそういった体験が得られそうで楽しみです。また、アトリエ付近に週末だけ作品が見られるショールームのようなスペースを開く予定だとか。 やはり、展覧会は期間が限られてしまうし、閉幕するとその場がなくなってしまうことにずっとモヤモヤっとしてて。見せたいものをもっと楽に見せられる場所がほしいなと。過去の作品を見せたり、“こんなの作ったよ”って新作を実験的に見せたりできるスペースを、今作っている最中です。もしかしたら週末だけ、ポップアップなお店になるかもしれないし、コミュニティの場になるかもしれないし。まずは、何にも縛られず、やり方は自由に。いろいろ実験しながら、何ともいえない新しい感じにしたいなと思っています。 YOSHIROTTEN (ヨシロットン) アートディレクター・グラフィックデザイナー。また、デジタルと身体性、都市のユースカルチャーと自然世界など、複数の領域を往来するアーティストとしても注目を集める。主な展覧会に、2018年『FUTURE NATURE』(東京・TOLOT heuristic SHINONOME)、2019年『Tokyo Pop Underground』(ニューヨーク、ロサンゼルス・ジェフリーダイチ)、2024年『YOSHIROTTEN Radial Graphics Bio ヨシロットン拡張するグラフィック』(東京・ギンザグラフィックギャラリー)など。作品集に「GASBOOK28 YOSHIROTTEN」、「GASBOOK33 YOSHIROTTEN」(ともにGASBOOK )がある。 『FUTURE NATURE Ⅱ in Kagoshima』 ストーンアイランドも協賛しているYOSHIROTTEN初の公共美術館の個展が開催。 会期:10月8日(火)~11月24日(日) 会場:鹿児島県霧島アートの森 住所:鹿児島県姶良郡湧水町木場6340番地220 開園時間:9:00~17:00(入園は16:30まで) 休園日:月曜(祝日の場合は翌日休み) 観覧料:一般1,000(700)円/高大生700(500)円/小中生500(300)円https://open-air-museum.org
写真・宮前一喜 文・松本雅延