少子化が加速する日本、我々ができることとは? ──東大教授・山口慎太郎が解説
社会全体で子どもを育てるという意識を
今後、男性の育児休業取得率を100%へと近づけ、家事や育児への参加が当たり前となる風土を作っていく上で、一人ひとりにできることは大きい。「今でこそノルウェーの男性育休取得率は約90%という高水準ですが、元々は2~3%と非常に低かったんです。そこから育休改革によって30%まで上がりましたが、そこから90%まで高める上で大事だったのが『周りの目』でした。特に職場のリーダーが育休を取り、子育てを充実させながらもキャリア上の安全が担保されていることを周りが確認できると、一気に広まっていきます。育休を取る機会がある人は、後に続く後輩たちの道を切り開くことにつながっていると思ってください。また、子どもを今後持とうと思う若い人たちは、キャリアや投資の情報と同じぐらい、早めに家族形成についても身近な人から能動的に情報収集をした上で人生設計をしていったら、自身が納得できる選択ができるでしょう」 とはいえ、子育ては長期戦だ。基本的な思想としてもっと必要なのは、「社会全体で子どもを育てよう」という意識が共有されることだと言う。 「子育ては最低でも18年続きます。制度的には男性も女性も時短勤務を選べるようになっています。しかし、現実の働き方としては、まだ受け入れられていないところがあります。経済界のリーダーや経営者らが強く打ち出すことで、日本の働き方の文化を変えていかなければいけない。また、養育費などの経済的不安においては、授業料だけでなく、給食費や修学旅行にかかる費用など包括的に教育費を捉えて、子どもを直接支援できるような制度を作っていけばいいのではないかと思います。大学進学にしても、必ずしも無償化だけが子育て支援ではありません。イギリス、オーストラリアは出世払い制度があり、親からは切り離された形で、子ども自身が稼げたらという条件付きの返済となっており負担感は少ないのではないかと。経済的な理由で十分な教育を受けられないというのは、本人にとっての損失なだけでなく、人材という極めて重要な資源を失うことにもなります。国の100年後を考えたときに、子どもを中心に投資していくことが必要な戦略になると思います」
山口慎太郎/SHINTARO YAMAGUCHI 慶應義塾大学商学部卒業。2006年、ウィスコンシン大学マディソン校にて経済学博士号を取得。マクマスター大学助教授・准教授、東京大学大学院経済学研究科准教授を経て、2019年より現職。専門は、結婚・出産・子育てなどを経済学的手法で研究する「家族の経済学」と、労働市場を分析する「労働経済学」。
写真・Gion 文・大庭美菜 編集・橋田真木(GQ)