韓国でくすぶり続ける「核保有論」 背景には北朝鮮の脅威と米国への不信感
北朝鮮の核・ミサイル開発によって脅威が高まっていることを背景に、韓国でくすぶり続けているのが「核保有論」だ。韓国が独自に核兵器を保有すべきだとの意見は保守層を中心に根強いが、各世論調査では半数以上が賛成の意見で、保革にとらわれない広がりを見せる。そうした声が出る背景や、実際に核保有に至る可能性について探った。(敬称略、共同通信=佐藤大介) ▽対話は不可能 大統領の尹錫悦(ユン・ソンニョル)は23年1月、北朝鮮の脅威が深刻化していることから「(米国の)戦術核を再配備したり、われわれ自身が核を保有したりすることもあり得る」と述べ、波紋を広げた。米国は4月の尹との首脳会談で拡大抑止の強化に合意、核保有論の沈静化を図るが、世論への影響は不透明だ。 核を求める声の背景には、米国への不信感と共に、核兵器の恐ろしさが十分に知られていない現状ものぞく。 「北朝鮮にとって核兵器は安全保障の最重要部分であり、非核化は現実的に不可能だ。対話を通した解決など、幻想に過ぎない」。韓国・世宗研究所の統一戦略研究室長、鄭成長(チョン・ソンジャン)(59)は、そう断言し「韓国は核保有という選択肢を持たなくてはならない」と主張する。
北朝鮮の専門家として知られる鄭は、自らの政治的立場を「中道」と言う。問題ごとに保守や革新へ支持は揺れるが、北朝鮮を取り巻く状況は「脅威のレベルが格段に上がっている」と危機感を隠さない。 「(北朝鮮は)非核国である韓国への戦術核攻撃も想定しており、防衛的な次元を超えた」。核保有を唱え「保守派」と糾弾されても、気に留める様子はない。 ▽疑念 同時に、鄭が抱いているのは、朝鮮半島有事が起きても米国は介入をためらうのではないか、という疑念だ。 「北朝鮮は米本土に届く大陸間弾道ミサイル(ICBM)を開発している。米国が果たして、自国が核攻撃される可能性を甘受するだろうか」と話し、核保有の必要性を強調する。 そうした思いは、原子核工学が専門のソウル大名誉教授、徐鈞烈(ソ・ギュンリョル)(67)も同様だ。「有事の際、米国はソウルを捨ててニューヨークを守るだろう」とし、核保有のため核拡散禁止条約(NPT)脱退も含めた議論をすべきだと話す。