韓国でくすぶり続ける「核保有論」 背景には北朝鮮の脅威と米国への不信感
川崎は「植民地支配の歴史もあり、日本の被爆経験を普遍的な物語として韓国に伝えるのは難しい」とし、「日本人以外の被害者に力点を置くべきだ」と考える。 「韓国人被爆者や核実験被害者の歴史を盛り込むことで、核兵器は国を超えた人類の問題である、という視点を示せる」 韓国の核保有は「すぐに現実化するとは考えにくい」と言うが、朝鮮半島を巡る緊張が高まれば予測不可能な面もある。 「非核化の原則に立ち返ることが最もリーズナブルであると、北朝鮮を説得する。それが日韓に求められていることではないか」。川崎は、言葉に力を込めた。 ▽膨大なコスト、可能性低い 東京大教授・遠藤乾氏 北朝鮮の核・ミサイル開発への懸念は理解できるが、実際に韓国が核兵器を保有するには障害が多過ぎ、可能性は非常に低いと見ている。 核拡散防止条約(NPT)は完全に機能不全に陥ったわけではなく、核保有国の不拡散に対する決意を低く見積もるべきではない。米国との関係を崩し、国連安全保障理事会による制裁も考えられ、原発の原料を確保するのも難しくなるなど政治的・経済的なコストは膨大だ。
韓国内では、北朝鮮の核・ミサイル技術が向上して米本土も射程に収めることから、韓国が北朝鮮から攻撃を受けた際、同盟国として米国が韓国を防衛することに消極的になるのでは、との見方がある。 ただ、米国の「核の傘」提供を軸とした拡大抑止への疑念は常にある。北朝鮮の狙いは、その疑念につけ込むことだ。 北朝鮮の核は本質的に体制防御的であり、通常兵器での劣勢を補うものと位置づけられる。核を使ったら体制が抹殺されるという、北朝鮮側の恐怖心を担保することが大事で、韓国における拡大抑止への疑念は十分に根拠があるものとは思えない。 その前提が崩れるのは、再びトランプ氏のような人物が米国で政権に就き、半島へのコミットメントを変える瞬間だ。 万一、韓国が核保有に踏み切った場合、中国が反対するのは織り込み済みだ。反実仮想でしかないが、中国政府が韓国の核武装を脅威ととらえ、無限軍拡を恐れて軍備管理へ向かう可能性がないわけではない。