「旅行中死亡」遺言、帰宅後10年経過でも有効か 司法判断の決め手は生前の性格と言動
「旅行中に事故などで死亡した場合は…」。こんな文言から始まる遺言書の有効性が訴訟の争点になった。遺言者の男性が旅行中ではなく、無事に帰ってきた約10年後に死亡したため。遺言の有効性は旅行中に限られるか、それ以外のケースにも及ぶかについて、親族間で争いが生じたのだ。遺言書を巡るトラブルは多く、訴訟も絶えない。トラブルを防ぐ書き方のポイントはあるのか。 【イラストで解説】遺言書作成の注意点 ■ポイントとなった「きちょうめん」 「私たち夫婦の旅行中に不慮の事故などにより死亡した場合の相続分割を遺言する」 問題となったのは約30年前に男性が手書きした遺言書だ。男性は作成直後に4日間の国内旅行に出たが、何らトラブルなく帰宅。その後もたびたび旅行に出かけ、遺言書をしたためた約10年後に死亡した。 「『旅行中』とあるため、無事に帰ってきた時点で失効している」。相続の割合が少なかった親族は、遺言の無効確認を求めて提訴。被告となった親族側は「あくまで旅行は一例で、死亡一般における遺産の相続を指示したと解釈するべきだ」と反論した。 9月の判決で、大阪地裁はまず判例に基づき「遺言書の解釈は文言を形式的に判断するだけではなく、遺言者の真意を探究すべきもの」と言及し、男性の生前の言動を検討した。 男性は資産をこまめに管理するきちょうめんな性格だったが、旅行のたびに遺言内容を書き換えたり、旅行中以外の死亡を想定した別の遺言を用意したりすることはなかった。 こうした状況を踏まえ「旅行中に限定する遺言を作成したのであれば、旅行中以外に死亡した場合の遺言についても別途作成しておくのが自然」と判断、遺言書は有効と結論付けた。原告側の親族は判決を不服として控訴した。 ■「ドン・ファン」も訴訟に 遺言書の重要性は浸透しつつあり、司法統計によると、家庭裁判所が相続人とともに遺言書を開封して内容を確認する「検認」は昨年1年間で約2万2千件あり、令和元年より約3700件増加した。 しかし、遺言書があるだけでは相続のトラブルを全て回避することはできない。「紀州のドン・ファン」と呼ばれ、平成30年に死亡した和歌山県田辺市の資産家、野崎幸助さん=当時(77)=の10億円以上とされる遺産を巡っても、田辺市に寄付するとした遺言書の有効性が訴訟の争点となり、和歌山地裁は6月、遺言書は有効と判断している。