「近所のお店の人たち、みんな患者さんですよ」東京・新大久保、「多国籍な」街の歯科医
「中国語 英語 台湾語OK!!」。こんな看板の歯科医院がある。場所は東京・新大久保。多言語での治療ができる「新宿歯科クリニック」は、台湾出身の院長と日本人の妻が営み、患者の8割が外国人という。おそらく全国的にも珍しい「インターナショナルな」歯科医院を取材した。(ジャーナリスト:室橋裕和/撮影:菊地健志/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
千葉からネパール人が訪れる歯科
「こんにちは。今日はどうされたんですか」 東京・新大久保にある「新宿歯科クリニック」。受付をしていた星野恵美子さん(62)のやわらかな声が、医院の中に響く。 「どうにも歯がしみて」 今日が初診という、ネパール人のマッラ・チトラさんが苦笑いする。シェフとして働く千葉県から、休日を利用して出向いてきた。 「あら、どうしてわざわざ?」 「コロナの影響で仕事が減っちゃって。新大久保はネパール人も、ネパールのレストランも多いでしょう。友達もこの街で働いているので、なにか仕事がないかなと相談に来たんです。ついでに歯の治療もと思って。この歯医者さんは英語が通じるって友達に紹介されました」
日本には10年ほど住み、日常生活には困らない程度に日本語を話すが、病院にかかるときなど専門用語のやりとりが多い場面は英語のほうがいいという。 「えー大変。見つかるといいねえ、お仕事」 チトラさんとは初対面にもかかわらず、恵美子さんはもう親しげに話している。いかにも町医者といった距離の近さも、いまどきは珍しいのかもしれない。 続いて中国人の女性がやってきた。歯の定期クリーニングだというが、日本語はカタコトだ。 「日本に留学に来て1年くらいです。日本語がまだ少ししかわからないので、中国語が通じる歯医者さんは助かります」 こうした多国籍な患者を、診察室で一手に引き受けるのは、台湾出身の院長・星野鴻一さん(64)だ。日本国籍を取得し、台湾語、中国語、英語、それにもちろん日本語も堪能な「マルチリンガル歯科医」なのである。この街に住み、働く外国人に頼りにされてきた存在だ。やはり英語のわかる日本人の妻、恵美子さんとふたりで、クリニックを訪れるさまざまな人たちの人生を見つめ続けている。