「賃貸VS持ち家」論争に新見解! 持ち家有利の主張が多い中、見逃しがちな「売るに売れないリスク」
【賃貸】老後のリスクに備えた資産運用が重要
現役時代を賃貸で通す場合には、住宅ローンという負債を抱えることはない代わりに、老後にリスクを負います。そのため、資産形成をしっかりと行っておかなければなりません。 不動産バブルやインフレによって上がる家賃を支払いながら、資産の一部をインフレに強い株式や金などに替えておくなどの対策が必要になります。 インフレで現預金の価値は目減りする 資産形成を行う必要があるので、収入を自分の好きなように使ってしまうのではなく、計画的な貯蓄が必要です。ただし、現預金の価値はインフレーション(インフレ)によってどんどん目減りしてしまう点に注意が必要です。 インフレは好況下でモノ・サービスに対する需要が増加し、供給を上回ることで発生します。 日銀は前年比2%という基調的な物価上昇率を目標としています。去年100円で買えたものが今年102円になり、再来年には104.04円(=102×1.02)になることを目指しているのです。 つまり、現預金だけで資産形成をすると、物価上昇率の分だけ、そのお金で買えるものが減っていくことを意味するわけです。 家賃も物価なので、同じ家賃で住める家のレベルが下がり続けることを意味します。最近の不動産価格の記録的な高騰は、短期的には家賃の値上がりという形で影響を受けることになります。 バブルで上昇している部分は再び下がりますが、インフレによる基調的な上昇部分については下がりません。 賃貸にとってデフレは好都合 この逆のデフレーション(デフレ)とは、物価が下がり続けてお金の価値が上がり続けることです。 デフレは不況下で需要が減少し、供給を下回ることで発生しますが、ずっと賃貸で資産形成は現預金だけという人にとっては、ピンポイントで都合の良い状況といえるでしょう。
【持ち家】純資産がマイナスになると売るに売れない
持ち家の場合は、今の時点から多額の資産を不動産として所有し、それとセットで住宅ローンという多額の債務を負うことになりますね。 私は貸借対照表でそのリスクを把握することを推奨しています。貸借対照表を作るにあたって調査する項目は図表2のように、現預金、マイホーム、住宅ローンの3つだけです。 図表2 持ち家のリスク賃借対照表 「資産」の見方 現預金:基準日に所有している現預金のほか、投資信託や保険積立金などの現金化可能な金融資産を集計します。 マイホーム:基準日のマイホームの市場価格を調べます。マンションであれば、同じマンションで売りに出されている部屋が見つかるかもしれません。実務上も、対象不動産と類似の不動産が実際に取引された価格をもとにして、対象不動産の価格を求める「比較方式」で評価します。 次の計算式で簡易に査定価格を計算することができます。戸建てでも分譲となるような大型のニュータウンや都市部のミニタウンであれば、この計算式が使えます。 「簡易査定価格=同じマンションの販売価格の㎡単価×自分の部屋の面積」 持ち家ならインフレ対策になる 資産のうち現預金の部分については、賃貸と同様にインフレによって価値が目減りするリスクがありますが、マイホームが強力なインフレ対策になっています。 マイホームは逆にデフレや不動産バブルから値下がりに弱い部分でもありますので、住宅を取得した後の資産形成は主として現預金によることでバランスの取れたものとなるでしょう。 「負債」の見方住宅ローン: 大手の銀行であればインターネットバンキングが採用されているので、住宅ローンの現時点の残高を調べたり、ネットで繰り上げ返済ができるようになっています。 また、住宅ローンもインフレ対策になります。インフレで家賃が上がっていくのに対して、住宅ローンの返済額は約定の通り変わらないからです。 しかし、資産に計上しているマイホームの価格が負債の住宅ローンの残高を下回る場合は黄色信号です。これはすなわちオーバーローンになっているということです。 建物の資産価値は使用や経年劣化によって価値が下がっていくものですが、そういう想定を超えるスピードで建物と土地を含めたマイホームの資産価値が下落していることを意味します。そういったケースでは今後もその含み損が拡大していく可能性が高いと言えます。 オーバーローンの場合は、足りない部分については手持ちの資金を足して住宅ローンを完済しなければ売却することができません。資産を所有するということは、価格の変動リスクを負うということを意味します。 「純資産」の見方 資産の合計と負債の合計の差額が純資産です。これがプラスなら、オーバーローンであっても少しだけホッとすることができます。 純資産がマイナスとなることを債務超過といいます。会社であれば倒産の危機となりますが、個人の場合は毎月の住宅ローンの返済を続けている限り、たちまち危機に瀕するわけではありません。ただし、想定外のアクシデントに極めて弱い状態と言えるでしょう。 現役で持ち家を選択するということは、貸借対照表の純資産がマイナスになってしまわないように気を配りながら、約定通りに毎月の返済を最長35年(420回)やりきるということです。 これをやりきることができれば、老後のリスクを大きく下げることができるわけですね。