絶妙すぎるキャスティングに、怖すぎる展開…「3000万」異色の“闇バイトドラマ”がNHKで生まれた背景
■「闇バイト」にうっかり巻き込まれる小市民側を描く 『3000万』というちょっと奇妙なタイトルのドラマは、現実とあまりにリンクしていた。 この頃、やたらと闇バイトの報道がされているが、闇バイトとは、警察のサイトによれば「SNSやインターネット掲示板などで、短時間で高収入が得られるなど甘い言葉で募集しています。応募してしまうと、詐欺の受け子や出し子、強盗の実行犯など、犯罪組織の手先として利用され犯罪者となってしまいます」というもの。
「やめたいと思っても、応募のときに送った身分証明書から『家に行く』『家族に危害を加える』と犯罪組織から脅されて逮捕されるまでやめられません。逮捕されたあとに待ち受けるのは懲役や被害者への損害賠償です。もちろん犯罪グループは助けてくれません。闇バイトは使い捨てです」と関わらないよう強く警告している。 安易に高額のバイトに手を出すと底なし沼に陥ることになる。にもかかわらず、昨今、闇バイトによる強盗殺人事件があとを絶たない。高齢者たちが家に押し入られボッコボコに暴行され金品を奪われる。
その恐れから防犯グッズがにわかに売れているらしい。年金暮らしで戸建て住まいの高齢者は戦々恐々。それ以外の市民も心配な毎日。そんなとき、『3000万』は、闇バイトにうっかり巻き込まれる小市民側の心境と状況を丹念に活写している。 若者が巻き込まれていく事件を追う側のドラマは、NHKでこれまでも制作されていた。たとえば、オレオレ詐欺を追う『サギデカ』(2019年)などである。『3000万』は罪を犯した側が主人公であることが珍しい。
■絶妙なキャスティング 幸か不幸か、家族のように親しくしていた人物が事件を追う刑事・奥島(野添義弘)で、何度も3000万円を返す機会は訪れる。相談に乗ってもらうこともできた。にもかかわらず、お金を持ったままどんどんと悪いほうに転がっていってしまう主人公たちにイライラすることもしばしば。 でも、この愚かな夫婦がどうなるのか目が離せない。海外ドラマ『ブレイキング・バッド』(2008年)などに見られる、主人公が悪事に手を染め変貌していくようなエンタメ性、中毒性があるのだ。