「人生が行きかう交差点に立って」結城真一郎×TAIGA『難問の多い料理店』
配達で互いの人生が交わる
――小説には配達員とオーナーの関係や、配達先で客と話す場面が書かれていますけど、実際に配達されている時、店のオーナーと顔見知りになったり、お客さんのプライベートが垣間見えたりすることもあるんじゃないですか。 TAIGA 両方あります。マックの店員さんとか僕を芸人と知ってくれているし、「のど渇いてませんか」とお水を出してくれたりする方もいます。配達側でいうと、ウーバーイーツのチップはアプリを通して送るんだけど、金額に上限がある。でもタワマンに一回届けたら「お父さんとして頑張っている姿をテレビで見て感動したんで」と一万円札をくれた。ありがたかったです。 かと思えば、神棚があって日本刀みたいなものが飾ってあって、彫り物が入った人が出てきて絶対ヤ〇ザだなというところにも届けました。こちらがビビるのを見て楽しんでいるように思えるんですけど、こっちは動揺してませんみたいな感じで渡しました(笑)。首吊りや飛び降りがあったとニュースで見た場所ではやはり少し身構えてしまうし。あと、ランジェリー姿で出てこられて、誘惑されてるのかな、AVの設定で見たやつだ(笑)、なんて時もありました。 結城 配達先がラブホテルの一室で、プレイの一環なのかバスタオル一枚の女性が受けとりにきて、奥で男が見ているという話を読みました。プライベートの空間に一瞬でも第三者が介入する、互いの人生が交わるのは面白い。そこを拡大したのが今回の小説なんです。TAIGAさんの話を聞いていると、この作品に出てくるギグワーカーたちの生活が、より肉づいたみたいな感じがします。 TAIGA 残念なのがコロナ禍以後、置き配が増えすぎてもう対面は二、三割しかないこと。暑いなかや雨のなかに届けて「ありがとうございます。ご苦労様です」と言ってもらえたら頑張ってよかったなと思いますけど、知らん家にポツンと置いて証拠の写真をパッと撮って帰るのはむなしいです。 結城 個人的には、他の人が触れられる場所への置き配には抵抗があるんですけど、一般的には逆なんですね。 ――小説では、配達員がこんな時間にこんなものを注文するのかよと思う場面がありますけど、そのように気になったことはありますか。 TAIGA むしろ、夜中まで配達しているとなにを運んでいるかは、どうでもよくなってきます。たまに丁寧な店員さんが、メニューを一つ一つ説明してくれるんですけど、急いでるんだけど! ってなる。あと、配達員は店へ行ったら、暗証番号みたいなものを書いて渡すんですけど、感じの悪い店員はいきなり「はい、番号」って言う。俺は番号で呼ばれる受刑者じゃねえよ、と。置いてある商品を黙って棒で指したりとか。配達員にもマナーが悪いやつはいるし、嫌な思いをした経験があるかもしれないけど、頑張っている人もいる。配達員だって店の客になる可能性があるのに、対応を悪くしたら駄目だと思うんですよ。 結城 配達員を邪険にするメリットなどないですからね。今回の作品にいろいろ詰めこんだつもりでしたけど、TAIGAさんのお話を聞いて、まだネタはあると思いました。もし続編を書くことになったら、またよろしくお願いします。 「小説すばる」2024年7月号転載
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