ペアローンの典型的破綻事例と、別れた夫の手助けなしでも家を残せた稀有なケースを銀行員が報告
ペアローンにおける財産分与の考え方
一般的に、離婚することになった場合、家や預貯金などの財産も夫婦が協力して作り上げてきたと考え、別れる2人の間で分け合うというのが「財産分与」という考え方です。ハリウッドスターなどの離婚に際して「財産分与額が◯◯億円」などと話題になることでも知られています。 この財産分与の事情がペアローンの場合は異なってくることがあります。ペアローンを組んだカップルは、それぞれに収入があったわけです。2人で協力して財産を作ったというよりも、それぞれがそれぞれの財産を作ったと表す方が近いでしょう。そうなると、離婚時に財産分与で相手の持ち分を受け取れるケースばかりではなくなるのです。 こうしたケースでは、家に残る側が出ていく側の持ち分を買い取るという選択肢があります。とはいえ、実際に売買するわけではなく、相手が持っている持ち分と引き換えに、相手のペアローン残額も引き受けるといった流れです。これが「負担付贈与」という考え方で、受け取ったモノ(ここでは住宅の持ち分)と負担したモノ(相手のペアローン残額)を比べて、受け取ったモノが多い場合には贈与税の対象になる可能性もあります【参考(4)】。 このように税金の面でも注意が必要になるため、負担付贈与などを考える際には税理士や弁護士など専門家に相談した方がいいと思われます。 【参考(4)】国税庁/タックスアンサー(よくある税の質問)/No.4426 負担付贈与に対する課税
相手のローンまで完済した母~E子さんのケース
最後に、ペアローン関連のトラブルを解決する見本とも言えるE子さん(女性・会社員)の事例を紹介します。 E子さんも夫婦でペアローンを借り、夫が出ていったところまでは冒頭A子さんと同じでした。しかし、そこから先が大きく異なっていたのです。 「家と子供を守るため、夫の自宅持ち分を負担付贈与で自分のものにする」と決めたE子さんは、弁護士に相談したうえで、銀行に来店(弁護士同席)されました。 その際にE子さんは、 ・法的な問題について弁護士に確認し、そのアドバイスに沿って進めていく ・贈与税の対象にならない方法など、弁護士が紹介した税理士に相談して税金面も確認済み ・自分のローンにプラスして相手のローンまで返済可能な計画を自作して持参 といったように、しっかりと準備をしたうえで来店されたのです。 E子さんの収入で2人分のローンを返済するのは返済比率的に厳しいと思われました。しかし、E子さんは「実父(公務員で預金もそこそこあり)を保証人にしてでも対応して欲しい」とのこと。 私はあまりにもしっかりしているE子さんに驚き、感心し、最後には応援したくなりました。 そんなE子さんも最初はどうしていいかわからなかったそうです。しかし、「自分が動かなければ家も子供も、自分もダメになる」と一念発起したと話されました。また、弁護士は実父の紹介によるもので、いろいろとE子さんの相談に乗ってくれたとのことでした。 最後には自分と夫の2人分のローンを完済したE子さん。まさにペアローンのトラブルを解決する見本とも言える事例で、いつか機会があれば読者の皆さんに伝えたいと考えていました。
まとめ
今回はペアローンについて、銀行員として解説をしてきました。 文中でも述べましたが、2人で借りるペアローンは、ローンも2人前ならリスクも2人前なので注意しなければいけないこともあります。 しかし、注意点を認識して「ペアローンで幸せは2人前どころかそれ以上」になってほしいと、ペアローンを扱う一人の銀行員として考えています。
加藤隆二