ペアローンの典型的破綻事例と、別れた夫の手助けなしでも家を残せた稀有なケースを銀行員が報告
住宅ローンを夫婦などで一緒に借りる「ペアローン」が年々増加しています。この新しい仕組みを私は応援したいのですが、同時に注意すべき点もあります。そこで今回はペアローンの典型的な破綻事例と、夫婦関係が破綻しても家を残した稀有(けう)なケースを、住宅ローンを扱う銀行員が解説します(金融ライター・加藤隆二、現役銀行員) 住宅ローンの10年後の変動金利は、0.7%~2.3%に上昇すると試算(12銀行ごとに見通しあり) 目次離婚して自宅を手放すことになってしまった~A子さんのケースペアローンとは?ペアローンのメリット・デメリットペアローンにおける財産分与の考え方相手のローンまで完済した母~E子さんのケースまとめ
離婚して自宅を手放すことになってしまった~A子さんのケース
まず初めに、銀行員の私が仕事の中で体験した、ペアローンに関連するトラブルの事例を紹介します。 A子さんのケース1、A子さん(女性・会社員)とBさん(男性・会社員)の共働き夫婦・ペアローンでそれぞれローンを借りて返済していたが離婚 ↓2、話し合いの結果、Bさんは家を出ていき、子供はA子さんが育てることに ↓3、裁判や調停などはせず、弁護士なども間に立っていないので、慰謝料は発生しない ↓4、Bさんが子供の養育費と、Bさん分の住宅ローンを引き続き支払う(A子さんに振り込む)という約束になった ↓5、離婚して1年が経過した頃、Bさんからの支払いが遅れ始めた A子さんはBさんに約束通り払ってほしいと言ったが、いろいろと理由を聞かされ支払ってもらえず、やがて連絡も取れなくなった。 ↓6、A子さんは自分の給料や実家の援助などでなんとかやりくりしていたが、家計や子供の養育があるうえに、1人で2人分のローンを払うのが大変になる ↓7、手持ち金も底をつき始めた頃、銀行窓口の私に相談があった これは実際によくあるケースで、なにかのきっかけ(往々にして返済が遅れはじめたなど)で事情をうかがうと、「実は…」と説明していただくことで状況が判明するといったパターンです。 離婚したことなどは誰でも他人に話したくないものですし、また住宅ローンの返済が1回でも遅れると銀行に家を取り上げられるのではと、A子さんは一人で悩んでいたそうです(もちろん、1回返済を滞納したからといって銀行に家を取り上げられるようなことはありません)。 ただし、このケースのように離婚してどちらかが家を出たと判明した、あるいは出ていくと前もって相談を受けたなどの場合、銀行は「ハイわかりました。ではこのまま引き続き返済してくれればいいですよ」とはいきません。 なぜなら、それが住宅ローンを借りるときの契約事項だからです。上記のケースのような場合には原則として全額返済を求めることが、「住宅ローン規定、契約約款」などに記載されています。とはいえ、実務面は一括返済という厳しい対応より先に、ローンの種類を「投資用ローン」「事業用ローン」などに変更して、住宅ローンよりは高い金利での返済をお願いするというケースもよくあります【参考(1)】。 ここで紹介したような事例を、私は銀行員として数え切れないくらい対処してきました。 A子さんのケースでは結局、住宅ローンを滞納し、自宅が担保処分として競売にかけられ、最終的には家を手放すこととなってしまいました。 通常の住宅ローンでも同じことは起こりますが、ペアローンの場合は物件が高額であることが多いため、より深刻なトラブルが発生しやすいのです。 【参考(1)】楽天銀行住宅ローン約款/第13条期限前の全額返済義務 2.債務者等(債務者又は連帯債務者のいずれか一人)について次の各号に掲げる事由のいずれかに該当し、(中略)当行から請求したときは、本契約に基づく債務の全部又は一部につき期限の利益を失い、借入要項に定める返済方法によらず、直ちにその債務を返済するものとします。(筆者中略) (8) 当行に届け出ないで取得対象住宅に債務者又は連帯債務者のいずれも居住せず、又は当行の承諾を得ないで取得対象住宅の全部又は一部を住宅以外の用途に使用したとき(筆者後略)