山で遭難「遺体で発見」よりも厳しいケースとは? 捜索のプロも沈痛「かける言葉がみつからない」
実は、身近な里山の登山道にも、山岳遭難につながる危険が至る所に潜んでいる。ニュースにならないだけで、低山での遭難も毎年、多数発生しているのだ。 捜索チームが「家族から最も聞かれる質問」とは
週末の楽しみで山に出かけた家族が、帰ってこない――。思いもよらない事態に戸惑う家族から依頼を受け、民間の山岳遭難捜索チームLiSS(リス)のメンバーと代表の中村富士美氏は山へ向かう。 LiSSの活動は捜索だけではない。大切な存在の安否がわからず、不安な時間を過ごす家族のケアも担っているのだ。今まで想像したことのない状況で、家族はどんな時間を過ごすことになるのか。現場のリアルな様子を、中村氏の初著書『「おかえり」と言える、その日まで 山岳遭難捜索の現場から』より一部抜粋してお届けする。 ***
プロですら掛ける言葉が見つからない
私は看護師として救急医療に携わり、患者さんとそのご家族に接してきた。 その経験を活かして、山岳地での遭難者やそのご家族に関わることができるのではないだろうかと考えていた。 しかし、いざ遭難者のご家族と話をすることになった時、大切な人が行方不明になるという現実は、私の想像を遥かに超えた厳しいものなのだと思い知ることになった。 私はご家族にかける言葉が見つからなかったのである。 朝、「行ってきます」と元気に家を出たのに事故に遭ってしまった、病気の患者さんの容体が急変した……そんな突然の別れを強いられたご家族を、救急の現場でたくさん観てきた。 そこには、患者さん本人が必ず家族と私たち医療従事者の前にいる。 それに対し、山で行方不明になった場合、遭難したご本人は、どこにいるのかも分からない。山中で亡くなっていたとしても、ご遺体を発見するまでは、安否を明確に知ることも叶わない。それまで経験したこともない状況におかれるご家族には、大変な心労がかかる。そして、2つのことを受け入れないといけないプロセスが待っている。 ひとつは家族が家に帰って来ず、どこにいるか分からないという「行方不明となった事実」。そして、もうひとつは、ご遺体の発見で直面する「大切な人の死」の現実だ。 この2つを受け入れられるようになるまでに、ご家族はいくつかの心境の変化を経ることになる。