長い人生をともに暮らすのにふさわしい相手を選ぶのは至難の業…結婚という人生最大級の「ギャンブル」
日本は今、「人生100年」と言われる長寿国になりましたが、その百年間をずっと幸せに生きることは、必ずしも容易ではありません。人生には、さまざまな困難が待ち受けています。 【写真】じつはこんなに高い…「うつ」になる「65歳以上の高齢者」の「衝撃の割合」 『人はどう悩むのか』(講談社現代新書)では、各ライフステージに潜む悩みを年代ごとに解説しています。ふつうは時系列に沿って、生まれたときからスタートしますが、本書では逆に高齢者の側からたどっています。 本記事では、せっかくの人生を気分よく過ごすためにはどうすればよいのか、『人はどう悩むのか』(講談社現代新書)の内容を抜粋、編集して紹介します。
結婚というギャンブル
青年期には職業同様、結婚に対する決断も迫られはじめます。 まずは、結婚するのかしないのかの決断。次に、するならだれとするのかの決断。 私事ながら、私は大学時代に四年間付き合っていた彼女がいたので、大学卒業と同時に結婚しました。そのことに迷いはなかったのですが、今から思うと、この結婚は競馬新聞も見ずに目の前の馬に大金を賭けるのも同然でした。四年間付き合ったとはいえ、同棲したわけでもなく、互いの人生観もよく知らず、ただ恋愛感情に任せて決めたので、新婚時代には意外な食いちがいや期待はずれで、大小さまざまな衝突がありました。 それでも情報が少ないということは、考える余地も少ないということで、迷わずにすむ分、楽だったといえるかもしれません。 研修医仲間のある友人は、三十数回、見合いを繰り返し、中にはダブルヘッダーやリターンマッチもあり、それでも決められずにいました。理由はよさそうな相手に出会っても、顔は前の相手のほうがよかったとか、性格は別の見合い相手が優しそうだったとか、過去に断った相手と比べてしまうからとのことでした。迷いに迷った挙げ句、結局は自分で見つけた女性と結婚しました。 同じ病院に勤務していた整形外科の医師は、見合いで結婚したあと、新婚旅行中に大げんかをして、絵に描いたような成田離婚をしました。新婦はとびきりの美人だったけれど、あり得ないほどのわがままで、見た目で結婚を決めたのが失敗だったと、当人は自虐的に解説していました。 見合いはもちろん、数年付き合ったとしても、その後の長い人生をともに暮らすのにふさわしい相手を選ぶのは至難の業です。ただでさえ、青年期は人生経験も浅く、価値観や人生観も固まっていないので、互いに未知数のまま結婚に至るというのが、実際のところでしょう。 だからといって、慎重になれば迷いが増えるばかりで、完璧な相手など存在するわけもなく、自分だって相手にとって最良だと胸を張るのもむずかしく、そうこうするうちに年ばかり重ねて、選択肢が狭まったりします。もし子どもを産もうと思うなら、女性は三十歳以降、妊娠の確率が下がり、先天性異常の危険性も高まるので、悠長に構えてはいられません。 さらに連載記事<じつは「65歳以上高齢者」の「6~7人に一人」が「うつ」になっているという「衝撃的な事実」>では、高齢者がうつになりやすい理由と、その症状について詳しく解説しています。
久坂部 羊(医師・作家)