監督室に呼びベッドで「一緒に寝ないのか」 判決「絶対的立場利用」
スポーツの場での性暴力に苦しむ人がいる。メンバー選びや進路に強い影響力がある指導者に逆らえず、チームに波紋が広がることを心配し、被害者は声を上げられない。むしろ自分自身を責めてしまう。次の被害を減らすために、実態を伝え、防ぐ手立てを考える。 【写真】女性が当時、監督に提出したノートの1ページ。監督の行為とそれに対する疑問を書き込んだが、返答はなかった。 ある女性は性暴力を受けた後、何年間もPTSD(心的外傷後ストレス障害)に苦しんできた。「同じ被害を受けている人がいると思うので、声を上げたい」と闘ってきた。 東京富士大ソフトボール部の部員だった。2016年に監督を務めていた当時70代の男性からセクハラを受けたとして、この元監督と大学側に約1100万円の損害賠償を求める訴訟を17年12月に起こした。東京地裁は20年8月、「絶対的立場にある監督からセクハラを受けた」と認め、大学と元監督に合わせて約80万円の賠償を命じた。 裁判は双方が控訴。東京高裁は21年4月、一審同様にセクハラを認め、元監督と大学に約112万円の賠償を命じた。 女性によると、暴力的な言動による指導が日常茶飯事だった。「洗脳もあったと思います。部員たちに『犬になれ』と言っていたこともあります。あくまで自分を慕え、と」などと女性は話した。「絶対にばれないように」密室が作られた。元監督は他の部員には、むしろ女性に非がある、という趣旨の説明をしたという。 判決は「絶対的な立場にあることを利用して行われた」と言及した。 裁判ではいくつもの言動が認定された。合宿中に女性を監督室に呼び出し、いすに座った体勢でひざの上に数分間、腰をかけさせ、両腕を女性の体の前方に回して体を引き寄せ、額を女性の背中につける。右手で衣服の上から左胸を触る。 女性を監督室に呼び出し、パジャマを着てベッドに横になった状態で、「一緒に寝ないのか」と発言。 他にも性暴力を重ねた。口止めも命じていた。 裁判では、部の先輩が証言台に立ち、元監督に受けた被害を証言した。選手が代替わりするごとに計画的にセクハラが行われていた、という趣旨の被害を訴える有志の文書も提出された。 元監督は、セクハラと判決をどう受け止めているのか。朝日新聞の取材にはこう答えた。「そのことにはですね、触れないようにしています」 東京富士大は取材に、判決について「厳粛に受け止めています」と回答。再発防止策については、「教職員対象のハラスメントセミナーを運動部指導者も参加して実施するなど、適切に対応しています」と回答した。(編集委員・中小路徹、藤田絢子) ◇ この記事は、連載「スポーツと性暴力」の一部を抜粋し再編集したものです。次の被害を減らすために、被害者の訴えや、識者の考える予防策を聞きました。連載では実態をより詳しく書いているため、気分が悪くなりそうな方は無理に読まないようにして下さい。 朝日新聞では改めて、スポーツ界の性暴力問題に取り組みます。情報や体験談、ご意見をt-sports-dept@asahi.comまでお寄せください。 【性暴力に関する相談窓口】 ■性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター(内閣府男女共同参画局) 電話:#8891 ※携帯、固定電話から利用可能 ■スポーツにおける暴力行為等相談窓口(日本スポーツ協会) 電話:03・6910・5827 ※毎週火、木曜の午後1~5時受け付け
朝日新聞社