「ソ連」崩壊から大国「ロシア」の復活 忘れられつつあるソ連後の歴史
■市場経済と計画経済の間
大統領就任後、プーチンはエリツィンの方針を大きく転換。エリツィン政権との癒着が噂されていた多くのオリガルヒを脱税などの容疑で検挙・収監し、その企業を国有化しました。その業種は、金融、メディア、天然資源など多岐に渡ります。 これに基づき、プーチン政権はガスプロムなど国営企業による天然ガスの輸出を拡大。折から2000年代初頭から国際的に資源価格が高騰したこともあり、IMFの統計によると2001年から2010年までの平均で4.8パーセントのGDP成長率を記録。市場経済と計画経済の中間を行く経済政策により、ロシア経済は1990年代の窮状を抜け出し、成長に転じたのです。 その一方で、プーチン政権にはメディアなど政権に批判的な言論の規制や、イスラム過激派に対する取り締まりなどで強権的な手法も目につきます。しかし、それでもプーチン大統領の支持率は一貫して60パーセント以上を維持してきました。 その背景には、経済再建や治安回復の業績だけでなく、欧米諸国に対する強気の姿勢もあるとみられます。 ロシア政府系シンクタンク、レバダ・センターが2015年12月に発表した調査結果によると、ソ連崩壊の引き金となったロシアの独立宣言に関して、「支持」と「概ね支持」の合計が29パーセントだったのに対して、「反対」と「概ね反対」の合計は34パーセント。2000年に行われた同じ調査の結果(39パーセントと28パーセント)と比べると、ソ連崩壊に否定的な感情が広がっていることがうかがえます。 ソ連崩壊後に芽吹いた、欧米諸国に対するロシア国民の反感は、超大国として米国と正面から対峙していた冷戦時代への郷愁と、プーチン政権の強気の外交姿勢への支持の根底にあるといえるでしょう。
■プーチン政権にとってのソ連
ただし、プーチン大統領自身が「ソ連復活」を目指しているともいえません。 プーチン政権下では「第二次世界大戦での勝利」が小学校教育で徹底されるなど、ソ連時代の歴史に基づく愛国心が鼓舞されています。その一方で、ロシア革命が起こった11月7日の革命記念日はソ連時代には国民の休日でしたが、2005年にプーチン政権によって平日となりました。さらに、2017年のロシア革命100周年記念イベントにプーチンの姿はありませんでした。 これらからは、支持基盤強化のために「ソ連の遺産」を選択的に利用するプーチン大統領の姿が浮かんできます。言い換えると、ロシア政府にとって「ソ連」の利用価値はそのイデオロギーにあるのではなく、「強かったソ連」のイメージの鼓舞によって「強いロシア」の方針への支持を集めることにあるといえるでしょう。 ただし、プーチン大統領の思惑にかかわらず、「強いロシア」イメージの流布はインフレや失業などへの不満を一時的に和らげる効果があります。そのため、例え政府と国民の「同床異夢」であったとしても、「ソ連復活」のイメージは今後もロシアで強調され、それはプーチン政権をますます強気の外交方針に向かわせるとみられるのです。
----------------------------------- ■六辻彰二(むつじ・しょうじ) 国際政治学者。博士(国際関係)。アフリカをメインフィールドに、幅広く国際政治を分析。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、東京女子大学などで教鞭をとる。著書に『世界の独裁者』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、『対立からわかる! 最新世界情勢』(成美堂出版)。その他、論文多数。Yahoo!ニュース個人オーサー。個人ウェブサイト