フジロック’24総括 絶体絶命のピンチを乗り越えて生まれた「奇跡」
3日目・7月28日(日)
betcover!! 11:30〈RED〉 betcover!!こと柳瀬二郎にとって待望のフジロック。バンドの実力を鑑みれば初出演は遅過ぎるくらいだが、その分これまで何度も観てきたファンにとってもこの日がベストパフォーマンスと言うべきステージだった。スーツ姿で登場した6人による合奏は、半屋外の広い会場でもこれまで以上に威勢と色気を放つ。クリアに響くサックスやピアノも絶妙な加減でアダルトなムードの醸成に一役買っていた。継ぎ目なく楽曲を繋ぎ、昭和俳優のような貫禄をまとった柳瀬が名作映画のように次々と景色を重ねていく。特に名シーンだったのは「炎天の日」で演奏を一瞬だけ停止したものの、柳瀬が手持ちのアコギで弾き語る余裕の復帰を見せてからの鬼気迫るプレイ、そして「超人」への流れだろう。緩急つけたアレンジが施された圧倒的な演奏と、おどろおどろしい大演説のような熱唱。究極のバンドアンサンブルが締まると同時に「betcover!!」の文字がバックスクリーンに映し出された瞬間はきっと一生忘れられない。(最込舜一) US 12:40〈RED〉 フィンランド出身のUSに先立ってまずステージに現れたのはフジロック生みの親、日高正博だ。日高氏が「いよいよ最後の出番ね」と言ったのは彼らが今回のフジロックだけで何度もライブを行ったからだが、若き5人組のステージは疲労など微塵も感じさせないエネルギッシュなものだった。主に英国で活動する彼らのパフォーマンスは、暴れん坊なブルースハープを吹き散らすハーモニカ担当のパン・ヒルヴォネンの姿とテオ・ヒルヴォネンのテクニカルで鋭いエレキギターが印象的で、伝統的なロックンロールショーといった趣だ。もはやアナクロなほどのブルースロックを炸裂させ観客を煽る彼らだが、基礎体力と演奏力の目を見張るような高さには希望を感じざるを得ない。曲が終わるたびに全員で驚異的な深さのお辞儀をしてくれるのがなんともキュート。フロアからほぼ見えちゃってる位置に座り、時折観客の表情を見やる日高氏の眼差しに孫を見るような暖かさがあった。(最込舜一) Rufus Wainwright 13:00〈GREEN〉 もみあげと髭には白髪も目立って貫禄が増したルーファス・ウェインライト。ステージ上にはグランドピアノとアコギのみが置かれ、それを交互に演奏しながらステージを進行していった。ミニマルで流麗なフレージングが光るピアノ曲、ピョンピョン飛び跳ねて歌う姿がキュートなアコギ曲はそれぞれ魅力的で、一人でもすっかり演劇的なショーを作り上げてしまうのは流石の一言だ。「イッショニオチコモウ」と呼びかけた「Early Morning Madness」、「イッショニハッピーニナロウ」と呼びかけた「Cigarettes and Chocolate Milk」、民主党の大統領候補に立候補をしたカマラ・ハリスに捧げられた「Going to a Town」などを続け、最後に歌われたのはレナード・コーエンの「Hallelujah」。悲喜交々の人生讃歌を歌い続けるルーファスの姿から、エルトン・ジョンを連想した。(金子厚武) クリープハイプ 15:00〈GREEN〉 まるで小説のようなライブだった。「邦ロック系バンド、ロキノン系バンドとして、誇りを持って今日このステージに来ました」と話し、アッパーに鳴らされた「しょうもな」。「フジロックのGREEN STAGEでちょっと気が引けるけど、雨が降っててみんな濡れてるしちょうどいいのでセックスの歌を歌います」と言って演奏された「HE IS MINE」。「聴きたきゃ聴いてくれみたいな気持ちでひさしぶりにライブができて、大事なものを思い出させてもらいました」と語り、自らの「満たされなさ」に言及した上で歌われた「大丈夫」。そして、「一生の思い出にするつもりで来たけど、思ってた何倍も楽しくて、思い出にするのは勿体無いから、ぜひまた呼んでください」と話して鳴らされた「栞」での大団円。60分のステージの中で起承転結を作り、喪失と再生の物語を見事に描いてみせた。(金子厚武) The Jesus And Mary Chain 16:10〈WHITE〉 結成から40年を迎えたジーザス&メリーチェインがWHITE STAGEに登場。ジム(Vo)とウィリアム(Gt)のリード兄弟に加え、ベースはプライマル・スクリームのシモン・バトラーだ。甘美なメロディとギターノイズに多くのオーディエンスが陶酔の表情を浮かべた。「Sometimes Always」はジムとシモンがデュエット、ジムのガールフレンドのレイチェル・コンテが登場して「Girl 71」を共に歌う一幕もあった。終盤、もったりとしたヘロヘロのギターリフが聞こえると大歓声が上がった。「Darklands」だ。ジムの気怠い歌に「I want go」というコーラスが重なり、WHITE STAGEを天国に誘う。続けて「Just Like Honey」。息を呑んでしまうような美しさが広がる中、「Reverence」へ。長いアンサンブルが響く中、ジムは目を瞑って何度も「I wanna die」と歌った。(小松香里) Raye 17:00〈GREEN〉 フォーマルな衣装を着た管楽器を含む8人編成のバンドと共に登場したレイ。まずは「The Thrill Is Gone.」で驚異的な歌唱力とバンドの演奏力の高さを見せつける。とにかくゴージャスで貫禄がある。ヒールを脱いでステージに跪いて熱唱したり、曲の最中にもオーディエンスに真摯に話しかける姿勢が印象的。深い感謝を伝えながら、音楽への愛情と今回のステージに懸ける想いを表情豊かに伝える姿に心を奪われたオーディエンスも多いだろう。中盤にはジェームス・ブラウンの「It’s A Man’s Man’s Man’s World」のカバーを披露し、恐ろしい程の歌のうまさをより発揮。ラストは070 Shakeと組んだ大ヒットナンバー「Escapism」。レイが「1、2、3」とカウントアップし、ジャンプを促すとGREEN STAGEが揺れた。(小松香里) toe 18:00〈WHITE〉 9年ぶりのフルアルバム『NOW I SEE THE LIGHT』を発表してフジロックに帰還を果たしたtoe。「録っただけで練習はしてない」と新作から披露されたのは「LONELINESS WILL SHINE」のみだったが、WHITE STAGEでのライブはいつも以上にエモーショナルに感じられ、柏倉隆史が椅子の上に立ってオーディエンスを煽り、山嵜廣和が寝そべってギターをかき鳴らす「エソテリック」はその象徴だった。ハイライトは「長く生きてると、自分の力や想いだけではどうにもならないことが結構あるなと気付いてくるんですが、『俺はこれがやりたいんだよ』っていうのが一個だけでもあるといいですよ。次の曲はそういうことに対するエールのような気が最近しております」と話して、んoonのJCとともに演奏された「グッドバイ」。白から始まり、紫、ピンク、オレンジと徐々に移り変わっていった背景は、最後に決して消えることのない情熱の赤へと変化していた。(金子厚武) Fontaines D.C. 18:00〈RED〉 フォンテインズD.C.がアイルランドの英雄と讃えられる理由は超シンプル、カッコいいからだ。単にそうであるのではない。カッコいいとはどういうことなのか、彼らは正確に理解している。バンドの華であるフロントマンのグリアン・シャッテンの猛獣のようでありながらジェントルな佇まい、他のメンバーに遅れてステージ上手袖から堂々とゆっくり登場する歩き方、ニヒルで知的な響きの歌声を妨げずに絶妙に空間を埋め尽くすサウンド、その全てがロックスターと呼ぶに相応しい。退廃的だがどこかロマンチックで、サウンドのバリエーションも豊富。終盤は「Boys In the Better Land」「I Love You」「Favorite」「Starburster」と、新旧の楽曲を巧みに織り交ぜ、ハードさとソフトさを交互に繰り出して観客を魅了した。起きるはずないとは了解しつつアンコールを求める声が巻き起こってたのも納得だ。その姿は未来のヘッドライナーとしての潜在能力十分に示すものだった。(最込舜一) ずっと真夜中でいいのに。 19:00〈GREEN〉 最終日、GREEN STAGEのサブヘッドライナーは5年前のフジロックでフェスデビューを飾ったずっと真夜中でいいのに。。超絶なテクニックで魅せる大所帯のバンドのセンターに佇むACAねはこの後に登場するノエル・ギャラガーの顔がプリントされた服を着用。「お勉強しといてよ」「上辺の私自身なんだよ」「機械油」「残機」等に加え、新曲や新たなラップを加えた「綺羅キラー」を披露し、スペシャル感満載。バールやチェンソーを振り回し、広い音域と多彩な声質を宿した歌声でエモーションを高めていったACAねは5年前のフジロックによって「音楽が最高だと思えた」と吐露。「きっかけになったフジロックに恩返ししたいし、もっとそういう人が増えてほしい。必死にひたむきにやりたい」と話した後、ラスト曲「暗く黒く」へ。津軽三味線や扇風琴をも擁したバンドの演奏がヒートアップする中、ステージのあちらこちらからCO2が噴出し、巨大なラボのような様相に。大興奮のオーディエンスに向かってACAねは最後「また来たいです」と口にした。(小松香里) Kim Gordon 20:00〈WHITE〉 71歳になるというのがどういう未来なのか、自分にはよく分からないし想像もつかない。しかし、孫のようなバンドメンバーを引き連れてフェスで歌う将来は少なくともありえそうにない。そんな仕事を成し遂げているキム・ゴードンは、オルタナティブロックの出発に多大な影響を与えたソニック・ユースの歩みを終えてもなお、ロックの可能性を拡大し続けている。真珠で飾られたブーツを履き、ギターを振り回し、時にマイク一本でステージを歩き回る姿には憧れるしかない。とにかく実験的で恐れを知らないサウンドも現場ではさらに強力な出音に変貌していた。「Grass Jeans」ではギターをスピーカーで擦りつけて音を出すパワープレイ。最後にもう1曲と告げて、冒頭の「BYE BYE」を再演するというのも粋な演出だった。(最込舜一) Noel Gallagher’s High Flying Birds 21:00〈GREEN〉 ライドのアンディ・ベルからバトンを受け取る形でフジロック3日目のヘッドライナーを務めたのはノエル・ギャラガー。序盤は故郷マンチェスターへのトリビュートを捧げた最新作『Council Skies』からの楽曲を、マンチェスター・シティの監督であるペップ・グアルディオラのパネルとともに演奏し、その後はサイケにダンスとソロになってからの音楽的なトライを横断するセットリストを披露。ソングオリエンテッドな作風に回帰した新作からの楽曲のメロディーの良さは、ノエル健在を強く感じさせる。 一方、ライブ後半はオアシス曲の連打となり、「Talk Tonight」や「The Masterplan」など、昨年リリースから25周年でリイシューされた『The Masterplan』の楽曲が多く選ばれていたことにニヤリとしつつ、ソロキャリアを経て円熟味を増した現在のアレンジで鳴らされていることには音楽家としてのプライドも感じられた。「Love Will Tear Us Apart」のカバーで本編を終えた後の、アコースティックにアレンジされた「Stand By Me」と「Live Forever」はそのスタンスがより顕著。ただラストに披露されたお待ちかねの「Don’t Look Back In Anger」に関しては、ギターソロも自分で弾き、オーディエンスの期待にちゃんと応えていたのは「さすが俺たちの兄貴!」という感じ。オアシスは今年デビュー30周年。リアムはこちらもマンチェスターの英雄であるジョン・スクワイアと作品を作り上げた。兄弟の明日はどっちだ。(金子厚武) Turnstile 22:10〈WHITE〉 ターンスタイルは定刻を過ぎても姿を見せず、その間に雨が降り始めた。しかし、フジロック最終日のトリを務めるという期待感と周囲の熱気が相まって、観客の興奮は最高潮に達した。その興奮を爆発させたのが、彼らの登場と同時に始まった激しいナンバー「T.L.C」だった。ハードコアのライブに馴染みのない自分のような観客も含めて一気に会場のボルテージを最大値に到達させた。演奏が超人レベルで素晴らしいのはもちろんのこと、ハードコアの芯をぶらさずに幅広いジャンルを貪欲に吸収した音楽性も驚異的だ。起爆剤としてのポップなフレーズを大量に持つのも彼らの強みである。おそらく座って聴いても大興奮に違いないが、フロア前方のサークルモッシュで揉みくちゃになる体験に息を切らした。 「T.L.C」は「TURNSTILE LOVE CONNECTION」の略だという。自分たちが見たい景色をオーディエンスと共に自分たちの手で作り上げるという強く優しいハードコア精神。それこそが彼らなりのホスピタリティであり、オーディエンスも全身でそれに応えるのだ。エモーショナルな「MYSTERY」が終わると、ボーカルのブレンダンの煽りを受けてステージ上に数百人のオーディエンスが駆け登る異例の事態に。フィナーレを飾る「HOLIDAY」の終盤には、フジロック最終日を祝福する紙吹雪が発射され、その渦中で完全燃焼。それはもうハッキリ言って天国だった。(最込舜一)
Kaori Komatsu, Atustake Kaneko, Shunichi MOCOMI