フジロック’24総括 絶体絶命のピンチを乗り越えて生まれた「奇跡」
2日目・7月27日(土)
Hedigan’s 11:30〈RED〉 「Suchmos以降」を感じさせるBillyrromに続いて、Hedigan’sがフジロックに初登場。ウィルコ「Via Chicago」ばりの轟音パートを含むこの日の1曲目「LOVE(XL)」がリリースされたときは、「YONCEがGliderやゆうらん船のメンバーとサイケなインディフォークを始めたのか」と感じたが、ライブは音源以上にエクスペリメンタル。熱量高いガレージロックな最新曲「O’share」にしろ、フィッシュマンズばりのダビーなロングトリップを聴かせる「説教くさいおっさんのルンバ」にしろ、どの曲も非常にラジカルな印象を受ける。Y0NCEの存在感はやはり格別だが、栗田将治のギタープレイも目を引くし、終始楽しそうに演奏するベースの本村拓磨もアイコニックで、「バンド」としての仕上がりも順調。SuchmosがGREEN STAGEに立った日から早6年を経て、自由に真摯に音楽を楽しむYONCEの健やかな現在地がそこにあった。(金子厚武) The Last Dinner Party 13:00〈GREEN〉 アビゲイル・モリス(Vo)、ジョージア・デイビーズ(Ba)、リジ・メイランド(Gt)、エミリー・ロバーツ(Gt)、オーロラ・二シェヴシ(Key)という5人の女性メンバーが「それぞれ好きな服を着てきました」と言わんばかりの方向性バラバラの衣装をまとい、横並びにパフォーマンスする姿が目に入った時点で祝祭感が増大する。そして、それぞれが奏でたい音を好きに奏でているような奔放さがありながら、やたら人懐っこくてポップなアンサンブルがとても魅力的だ。アビゲイルは何度もステージから下り、最前列のオーディエンスの手をタッチしたり、ミュージカルのように踊りながら歌い、強い求心力を放っていた。高校で日本語の授業を選択していたというジョージアの日本語によるMCはとてもチャーミング。ブロンディの「Call Me」のカバーも飛び出したザ・ラスト・ディナー・パーティー初のフジロックのステージはたくさんの笑顔を生み出した。(小松香里) Glass Beams 14:00〈RED〉 オーストラリア出身の覆面の3人組バンド、グラス・ビームスの初来日公演は超満員のレッドマーキーの大歓声で迎えられた。あまりにも蒸し暑い会場に負けじと早速「Mirage」の熱烈なサイケデリックサウンドで迎え撃つ容赦のなさ。雷のようなギターは音源よりロック色が強く、その背景にインド音楽だけでなく西洋のロックへの憧憬があったことを思い起こさせる。時には太鼓のように響くミニマルなベースと、的確に欲しい音を打ち込むタイトなドラム。3人の息は終始ぴったりで、「Mahal」での音源とは違った締め上げたグルーヴは昇天しそうなほどに気持ち良い。ダンスミュージックとしての性格を色濃く持つのが新鮮な驚きで、特にラストのカバー曲はインド古典音楽のラーガを人力テクノに魔改造したような圧巻のパフォーマンス。全く飽きさせない仕掛けに満ちており、世界中のフェスに引っ張りだこなのも強烈に分からせられた一幕だった。(最込舜一) Beth Gibbons 19:00〈GREEN〉 1998年にSMASH招聘の来日公演が行われるはずだったポ―ティスヘッド。しかし、直前にボーカルであるベス・ギボンズの体調が悪くなってキャンセルに。そこから未だに来日は実現していないわけで、今回のべスのフジロックのアクトは初めてべスの生歌が日本で響き渡るというメモラブルなライブとなる。弦楽器を含む大所帯のバンドメンバーと共にGREEN STAGEに現れたべス。リリースされたばかりの初のソロアルバム『Lives Outgrown』の楽曲を次々と披露。その幽玄な歌声は苗場の木々と一体化していくようだ。1曲ごとに大きな歓声と拍手を送るオーディエンスに感激したのか、笑顔を浮かべて何度も「ありがとう!」と口にしたべス。ラスト2曲目に歌われたのはポーティスヘッドの「Roads」。オーロラのような幻想的な照明の中、一瞬の声の掠れすら至高のアートのような歌を聞かせた。(小松香里) Sampha 20:00〈WHITE〉 白を基調としたビジュアルが神々しかったサンファの7年ぶりとなるフジロックでのライブは、人間の進化や未来への眼差しを強く感じさせるもの。トラックメイカーとしての個性を見せつけた『Lahai』の楽曲に、SBTRKTとの「Hold On」やケンドリック・ラマーの「Father Time」なども交えて進み、人力のブレイクビーツ(スネアの音が最高!)にシンセやサンプリングパッドを組み合わせた演奏は実に先鋭的。その一方、メンバー全員でドラムをアフロパーカッションのように打ち鳴らした「Without」で西アフリカという自らのルーツを明確に示し、声やシェイカーなどのプリミティブな要素を重用することで、どれだけ世界がデジタルに覆われても、その進化の源は人間の力であると伝えているかのよう。ラストの「Blood On Me」で広がった力強い手拍子は、そんなメッセージを会場全体で共有した証だった。(金子厚武) Kraftwerk 21:00〈GREEN〉 ステージに「あの台」が4台置かれている。それらが緑色の光を放ち、ドイツ語の8カウントで「Numbers」が始まると、コンソールとリンクして発光する「あのスーツ」を着たクラフトワーク御一行がゆっくりと登場。電子音楽をポップカルチャーの中心へと押し上げたパイオニアが苗場の地に降り立ち、観客で埋め尽くされたグリーンステージに姿を見せた。 数々の大名曲が連続する豪勢なセットリストを超高品質な音響で披露してくれただけでなく、視覚的な要素も充実していた。スクリーンには、楽曲に合わせて緻密に設計された視覚効果が次々と映し出される。例えば「The Man-Machine」では、アルバムジャケットをモチーフにした赤と黒の幾何学的なアニメーションが音楽のリズムと完璧に同期。「Autobahn」では、ドイツの高速道路を走る車の映像が楽曲の展開に合わせてスピードを変化させていく。例えば、「Spacelab」の演奏中には、宇宙船が苗場に向かって降下するユーモラスな紙芝居のようなアニメーションが投影され、まさかの苗場限定の演出に会場からは驚きと喜びの声が上がった。疑いようのないレジェンドたる彼らのパフォーマンスは日本に向けた特別仕様でもあったのだ。 そういう意味でも最も感動的だったのはやはり坂本龍一とラルフ・ヒュッターの写真が映された場面だろう。坂本との出会いを語り、「私たちは永遠の友人」だと述べ、“Merry Christmas Mr. Lawrence”がシンセサイザーでピアノに重ねて演奏されると悲鳴が巻き起こる。坂本が監修した「Radioactivity」の日本語詞が大画面に表示されたことについては、受け取り方は自由だとはいえ少なくとも日本への愛としてのメッセージだったと思う。そして「Tour de France」「Trans Europe Express」「The Robots」といった名曲の応酬を浴び、「電卓」ではオーディエンスが「いち!に!さん!し!」と合唱。最後の「Musique Non Stop」におけるメンバーが一人ずつ丁寧に頭を下げて退場する姿には、音楽界の世界遺産たる彼らの謙虚さと観客への感謝の気持ちが表れていた。(最込舜一) girl in red 22:00〈WHITE〉 ノルウェー出身のマリー・ウルヴェンによるガール・イン・レッド。バンドと一体となって、元気いっぱいにステージの端から端まで移動し、足を蹴り上げる仕草をしながら生命力あふれる歌を披露したと思ったら、曲間は楽しそうに曲の説明をしたり、一生懸命覚えてきたという日本語でMCをしたり、最前列にいたファンと会話をしてコーヒーのプレゼントを受け取ったり、とにかくハッピーなムード。中盤、赤い鍵盤の上にいた虫を茶目っ気たっぷりな仕草でつまんで逃がした後、「次の曲はハッピーソングだけど、こうやって私が日本に来れたこともハッピーだ」と伝えて演奏したのは「I’m Back」。鍵盤の旋律をループさせ、希望の歌を紡いだ。ラストの「i wanna be your girlfriend」ではオーディエンスに「真ん中を空けて」とリクエストし、ステージから降りて客席に突入。オーディエンスと一緒にジャンプしながら歌い、何度も「ありがとうございます!」と言いながらステージに戻り、ペットボトルの水をぶちまけ、ヘッドバンキングをして、笑顔でステージを去った。(小松香里)