フジロック’24総括 絶体絶命のピンチを乗り越えて生まれた「奇跡」
◎1日目・7月26日(金)
indigo la End 11:00〈GREEN〉 ウィンドシンセを用いたサマーアンセム「夜風とハヤブサ」と、川谷絵音がSGでノイズを撒き散らしながらステージに倒れ込むオルタナなロックナンバー「晩生」がバンドの二面性を象徴していたインディゴ初のフジロック。「コロナで出られなかった2021年はREDだったけど、今年はGREENに出れて嬉しい」という言葉がそのままこの3年における活動の規模感の広がりを示し、「今日はこの曲をやるために来ました」と言って、その変化のキーとなる「夏夜のマジック」を演奏したのがこの日のハイライトだった。最後に新曲の「盲目だった」が演奏されたのは、日本武道館公演のアンコールで「名前は片想い」が初披露されたことを思い出させるもの。ポストロック風のアルペジオを用いた「盲目だった」は、バンドの原点を踏襲しつつ、それを現代に更新していく予告の一曲だったかも。(金子厚武) Friko 14:20〈GREEN〉 愛すべきバンドである。デビューアルバムが日本のApple Musicの総合チャートで最高10位まで上り詰めるという成功を受け、GREEN STAGEに抜擢されたフリコの2人(とサポートの2人)は日本のオーディエンスからの歓迎が嬉しくてたまらないといった感じで、ニコ・カペタンの「風里鼓」バンダナも何とも微笑ましい。「Crimson To Chrome」で始まったライブはその勢いと4人全員で歌うコーラスがやはりアーケイド・ファイア(あるいは、ウルフ・パレード)を連想させつつ、ギターが2人ともアームを用いてノイズを鳴らした「Crashing Through」はソニック・ユースのようで、「For Ella」ではドラムのベイリー・ミンゼンバーガーがニコのギターで音響的なアプローチを見せたりと、音楽性の広さも印象的。終盤に披露された「Where We’ve Been」はすでにアンセムになっていて、11月の再来日も盛り上がること間違いなし。(金子厚武) Omar Apollo 17:30〈GREEN〉 苗場の景色に映える水色のセットアップを着用したオマー・アポロは伸びやかで艶やかな歌声とモダンなバンドアンサンブルでゆるやかに心地良いグルーヴを構築していった。公開されたばかりのMVをLEDビジョンに映しながら披露された「Drifting」で「come on!」とアジテーション。曲に込めた切なさを語りかけるような歌に昇華するだけでなく、全身を使ってミュージカルスターのごとく華麗な動きを見せながら珠玉のファルセットを響かせるとGREEN STAGEから感嘆の声が上がった。エレクトリックなバンドサウンドに合わせてフレディ・マーキュリーのような動きを見せた「How」の後、「一緒に歌って」と言って、「Invincible feat. Daniel Caeser」を披露。ラストは「Evergreen」。いくつもの声色を巧みに使い分けながら情感たっぷりに歌い上げ、オーディエンスの合唱を誘った。「we like music! Thank you amazing time!」と言って颯爽と去って行った。(小松香里) King Krule 18:30〈RED〉 実に10年ぶりの来日となったキング・クルールは個人的に初日のベストアクト。ポストダブステップ譲りのサイケな音響と官能的なサックスの音色を絡めながら、6人編成でジャズ~ポストパンク~ビートミュージックを横断するアンサンブルがまず素晴らしい。そして、ステージの中央でフラフラと揺れながらあの特徴的なしゃがれ声で歌い、シャウトをするアーチー・マーシャルの不穏な存在感がとにかく抜群だ。セットリストも新作から旧作まで満遍なく並ぶ満足度の高いもので、音源よりヘヴィな「Easy Easy」に圧倒され、“There’s a cat on the roof”という歌詞に倣ってオーディエンスが猫の鳴き真似を強制された「It’s All Soup Now」で爆笑。最後の「Out Getting Ribs」で一人スポットライトに照らされるアーチーの姿は、カリスマ以外の何者でもなかった。(金子厚武) Awich 19:20〈GREEN〉 初日、GREEN STAGEのサブヘッドライナーはAwich。ライブ前、Awichは「今日のステージはNEXTレベルのAwichを披露します」とSNSにポストした。まずは「Queendom」で自らの出自を示し、「荊棘を抜け 今立つフジロック!!!」とAwichが叫ぶと大歓声が上がった。一挙手一投足から並々ならぬ気合が漲る。2019年のフジロックに愛娘と一緒にSIAを観に行った時の話をしたAwich。1997年の初回から欠かさず来場しているリカさんという車椅子のフジロッカーの方と出会い、「私はAwichという名前でラッパーをやっていて、いつかGREENに立ちたい」と伝えたという。リカさんは今は亡くなってしまったと明かした後、「リカさん見てますか? フジロックのGREENに立てました!」と力強く報告した。 山田健人が手がける映像を効果的に使った非常に作りこまれたライブ。「『ヘッドライナーがキャンセルになったから行かない』とか「『Awichにサブヘッドライナーは務まらない』」とか何もしてないのに文句ばっか言ってるヤツ、マジお前誰!?」というMCからの「WHORU?」。YENTOWNが結集しての「不幸中の幸い」、NENEとMaRiとLANAとの「BAD BITCH 美学」、JP THE WAVYとの「GILA GILA」、OZWorld、CHICO CARLITO、唾奇との「RASEN in OKINAWA」……すべてがハイライトだったが、とりわけ印象に残ったのは初披露された新曲2曲だ。より海外への視座を強く感じさせる曲であり、CHICO CARLITOとの「LONGINESS」を披露中に改めてグラミーというワードを口にしていたが、まさに本格的に世界に踏み出すための一歩となるNEXT Awichのステージであった。(小松香里) Floating Points 20:30〈RED〉 2024年のフローティング・ポインツは完全クラブ仕様だ。近年のサム・シェパードはファラオ・サンダースとロンドン交響楽団とコラボした『Promises』や、バレエ作品『Mere Mortals』の音楽を手掛けるなど、作家としての多彩な側面を見せていたが、9月にリリースが予定されている新作『Cascade』からの先行曲はどれも『Crush』期を更新するダンストラック。この日序盤に披露された「Birth4000」をはじめ、硬いキックと太いベースのバンガーな楽曲が続けて投下され、近作のアートワークを手がける中山晃子の「Alive Painting」を元にしたVJとともにその音を浴びる体験は強烈にサイケデリック。トランス、エレクトロ、アシッドと様々なダンスミュージックを浴びせていくライブは、パンデミック以降のクラブ界に天才プロデューサーが帰還したことを強く印象付けるものであった。(金子厚武) The Killers 21:30〈GREEN〉 SZAがキャンセルとなり、デビュー年である2004年以来20年ぶりのフジロック出演がGREEN STAGEのヘッドライナーとなったザ・キラーズ。「Somebody Told Me」のグラマラスでダイナミックなサウンドが放たれると「待ってました!」と拳を突き上げるオーディエンス多数。ここから1時間半にわたって華やかなロックスター、ブランドン・フラワーズ(Vo, Key)を中心とするめくるめくロックエンターテインメントショウが展開された。ヘヴィにビルドアップされた「Jenny Was A Friend Of Mine」では「come on」の大合唱が巻き起こる中、ブランドンは歌唱中にフジロックというワーズを口にし、一層一体感を高める。キラーズの曲は一聴すればシンガロングできるキャッチーな曲だらけであり、フェスのヘッドライナーとして非常に強いということを実証していく。 中盤、「For Reasons Unknown」のギターリフが響く中、ブランドンは最前列にいた「CAN I DRUM!?」と書かれたボードを掲げていたキラーズTシャツを着た男性をステージに上げた。少し会話をした後、ブランドンから「東京から来たワタルだ」と紹介された男性はドラムセットに座り、1曲を通して見事なドラミングを披露し、ワタルコールが巻き起こった。この一幕もまたキラーズの最高のエンターテインぶりを示していた。アンコールはピンクのジャケットに着替えたブランドンの頭上からピンクの紙テープが勢いよく舞った「The Man」から始まり、「Human」「Mr.Brightside」と続け、オーディエンスの大合唱が轟いた。(小松香里) Peggy Gou 22:00〈WHITE〉 世界中で急速に支持を集め存在感を高める韓国のDJ、ペギー・グーのステージはBPM130後半を徹底的にキープするストイックな90分だった。WHITE STAGEの最高の音響でウワモノの彩度を使い分けながら、ディープハウスのゆったりとしたグルーヴを途切らさず徐々に盛り上げていく。彼女のMixではお馴染みのスリー・6・マフィアの名曲「Tear da Club Up」のマッシュアップでは、紫煙をくゆらせながら口ずさむのが見えた。90年代に並々ならぬ愛着とこだわりを持っているのが選曲から伝わってくる。折り返しくらいの時間で明らかに低音の強烈さのギアが一段階上がると、持ち曲「Lobster Telephone」を披露し、「(It Goes Like) Nanana」ではもちろん大合唱。90分にしっかり展開をつけながら最後はスッとスローダウンして〆。ペギー・グーは起承転結に手を抜かないDJなのだと思った。(最込舜一) 電気グルーヴ 23:45〈PLANET GROOVE〉 大勢の人が詰めかけた初日深夜のRED MARQUEE。1曲目の「アルペジ夫とオシ礼太」が流れる中、ピエール瀧が「こんばんは、電気グループでございます!」と第一声を発すると「KISS KISS KISS」という歌が聞こえ、「Shangri-La」へ。他にも「モノノケダンス」「ガリガリ君」「Baby’s on Fire」「Flashback Disco」という風に代表曲を次々と繰り出していくが、2024年フジロックバージョンとでもいうべきアップデートされたミックスに。楽曲をまったく風化させないところがまた結成35周年を迎えてもなお電気グルーヴが強く支持されている所以だろう。「The Big Shirts」で石野卓球が歌詞を「クラフトワークも赤いシャツ!」と変えて歌い、翌日のヘッドライナーであるレジェンドにリスペクトを表す場面も。最後は「富士山!」の大合唱が轟いた「富士山」。やはり電気グルーヴにはフジロックがよく似合う。(小松香里)