X・シャウフェレ、メジャー初優勝は「とても甘美な味わい」【舩越園子コラム】
全米プロ最終日は、ともに最終組で回るザンダー・シャウフェレとコリン・モリカワ(ともに米国)の熱戦になるだろうと予想されていた。 大会を終えた松山英樹&久常涼のインタビュー動画が届きました! モリカワは日系米国人。シャウフェレの母親は台湾出身で日本育ち。「日本ゆかり」は共通しているものの、モリカワはすでにメジャー2勝、シャウフェレはメジャー未勝利と大きな違いがあり、だからこそ2人の戦いに注目が集まった。 どちらもトータル15アンダー、首位タイから最終日をスタートしたが、シャウフェレが1番、4番とバーディを重ねた一方で、モリカワはなかなかスコアを伸ばせなかった。 モリカワが停滞しているうちに、ビクトル・ホブラン(ノルウェー)がシャウフェレに追いつき、まるでホブランの追撃に動揺したかのようにシャウフェレは10番(パー5)でボギーを喫してホブランに並ばれた。 このとき、またしてもシャウフェレが逆転負けする悲しい結末を予想したゴルフファンは少なくなかったことだろう。 2015年にプロ転向したシャウフェレは、これまで通算7勝を挙げ、2021年に行われた「東京五輪」ではゴールドメダルを獲得した実力者だが、昨今の彼は「惜敗の人」と化していた。 先週の「ウェルズ・ファーゴ選手権」では、最終日の7番まで首位を走りながら、その先でローリー・マキロイ(北アイルランド)に逆転され、勝利を奪い去られたばかりだった。 これまで首位または首位タイで最終日を迎えたことが8回だったが、勝利につなげたのは、わずか2回。ポール・ポジションからの勝率25%は「低い」と言わざるを得なかった。 最後に勝利したのは2022年7月の「ジェネシス・スコティッシュ・オープン」。ほぼ2年間、勝利から遠ざかっていたシャウフェレは、勝てそうで勝てない選手と見なされていた。 しかし、今週のシャウフェレは実に強靭で、10番のボギーを11番、12番で連続バーディーを奪い返し、再び単独首位へ浮上。 終盤は16番と18番をバーディとしたブライソン・デシャンボー(米国)に並ばれたが、それでもシャウフェレは黙々と自分のゴルフを続け、18番で1.5メートルのバーディパットを見事に沈めると、それが勝てそうで勝てなかったシャウフェレに初のメジャー・タイトルをもたらすウイニングパットとなった。 よくよく聞いてみれば、シャウフェレ自身は最終日の早い段階で勝利の予感を感じていたという。6番でグリーンの外からパターで寄せようと試みた第3打は、ミスヒットして6メートルほどを残したが、それを沈めて執拗にパーを拾った。 「あのパーセーブで、イケると感じた」 そう感じたら、7番、9番でバーディ獲得。すでに好感触と自信が得られていたからこそ、10番のボギーをモノともせず、11番、12番で連続バーディーを奪い、「72ホール目も冷静に1.5メートルを沈めることができた」と振り返った。 通算8勝目。初日から最終日まで首位を守り通しての完全優勝は全米プロ史上11人目の快挙だ。最終日の18ホールをプレーする間、ただの一度も表情を変えずに戦い続けたシャウフェレは、勝利が決まった瞬間、頬を緩め、初めて笑顔を見せて、こう言った。 「とてもいい気分だ。とても甘美な味わいだ」 同組だったモリカワと彼のキャディが、ウイニングパットを沈めたシャウフェレに盛んに拍手を送っていた姿がすがすがしかった。 先にホールアウトし、プレーオフに備えて練習場で球を打っていたデシャンボーは、打席から見えるビッグスクリーンでシャウフェレのウイニングパットを目にした途端、くるりと向き直って18番グリーンへ急行。シャウフェレを讃えた姿が、とても潔かった。 デシャンボーはすでに「全米オープン」を制したメジャー覇者だが、今年4月の「マスターズ」では初日を単独首位でロケット発進しながら、決勝2日間は尻すぼみとなって6位タイに終わった。続く今大会では、最後の最後まで優勝の可能性を感じていたが、「1打足りなかった。次こそ、もう一度、頑張る」。 PGAツアーの選手か、LIVゴルフの選手かにかかわらず、世界のトッププレーヤーたちが僅差で競い合った今年の全米プロは、スポーツマンシップが溢れ返るメジャー大会だった。観戦していた大勢のファンも、最後にはきと「とてもいい気分。とても甘美な味わい」を楽しめたのではないだろうか。 文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)