全ての人が安心して過ごせる未来を―山田悠史先生が高齢者診療の道に進んだ原体験
◇「未来を守る」というやりがい
現在私のもとで老年科を受診されている患者さんの多くは、それまでは各病気の専門科に通院されていらっしゃいました。その病気を専門とする医師に診てもらい、それはそれで安心だったかとは思いますが、巡り巡って老年科にたどり着き、ようやく自分に合った医療に出合ったのです。患者さんが喜ばれている場面に何度も立ち会うことができ、老年科に携わってきて本当によかったと思います。 老年科医として働くということは、年齢を重ねた患者さんの最終局面まで伴走するということです。さまざまな経験をされてきた患者さんと、人として向き合い話す機会を持てるので、医師である前に人間として学ぶことも多く、診療では日々やりがいを感じています。 多くの患者さんが、元気の秘訣は「あまり悩まず楽観的に生きてきたこと」とおっしゃいます。90年生きてきた人から伺うとやはり重みが違うと感じます。また、「これといった趣味がないのです」と100歳を超える患者さんにこぼしたところ「趣味なんて仕事を引退してから見つけるもの」という言葉をかけていただきました。100歳の人に自分の生き方を肯定してもらうと、背中を押してもらったような気持ちになります。医師の私が患者さんを支えているようでいて、実は私のほうこそ支えられているのではないかと思うのです。 このように、老年科医は人間として学ぶ貴重な機会を得られるという意味でもやりがいのある仕事です。また、将来的には子どもも含めて誰もが高齢者になります。そのため、老年科医は全ての人が安心して過ごせる未来を守る重要な仕事だと思っています。 しかし、高齢化社会による需要は多いものの、老年科医の数はまだ十分とはいえない状況です。日本には小児科専門医が1万6000人ほど(日本小児科学会認定、2022年時点)いる一方で、老年科専門医は1500人ほど(日本老年医学会認定、2018年時点)しかいません。 子どもには子ども特有の問題があり、そのために小児科医がいるように、高齢者には高齢者特有の問題があります。それに対応できる専門の医師がいることが大切だと考えますが、実際にはその重要性すら認知してもらうのが難しい状況です。まずは老年医学という領域が存在することを多くの人たちに知ってほしい――。そのような思いを抱きながら、日々診療や研究に臨んでいます。