現場は働き手減に苦慮 実情勘案した対応策必要 製糖の残業規制
鹿児島、沖縄両県の製糖業に対し、働き方改革関連法(改正労働基準法)に盛り込まれた残業上限規制が2024年度から適用されている。改正法は2019年4月施行だが、旧法で適用を除外されていた建設、自動車運転、医師、製糖の4業種は5年間猶予された。製糖は実質的には今冬製糖期から。それに向けた準備状況はどうか。8月末にかけて各工場の担当者に尋ね、連載記事(9月5~13日付)にまとめた。実情は両県24工場24状況。多くは働き方改革への対応以上に、地域の働き手減への対応に苦慮していた。 残業規制に対応できるだろうかという懸念は、例外撤廃という内容が表面化した17年春からあった。ほとんどの工場が製糖期従業員(季節工)集めに苦労していた。 この夏、さまざな声を聞いた。 「対応するのは厳しい。奄美から言っても国は動かないだろうから、沖縄側が何かアクションを起こしてくれないだろうか」「鹿児島側は3交代で残業規制に対応できている工場が多い。やればできるじゃないかというような役所の無言の圧力を感じる」「働き方改革というより、働きにくくする改革のように感じる」「働き手が高齢化して、手取りが減ることより、残業が減ることを喜ぶ人もいる。若手にも、そういう感覚の人が増えている」「残業規制を守るために工場を休むことで、畑の管理作業に手が回るようになった」 残業規制への対応については「どうなるか分からない」というニュアンスの答えが多かった。具体的には「決まったことだから。対応するとしか言えない」「難しいが、5年間猶予されており、今さらできないとは言えない」「残業を規制内に抑えるように計画を練っているが、その通りできるかは、季節工の集まり方次第」といった内容で、「今期は様子見になりそうだ」という声もあった。 両県の製糖工場の半数強が2交代で、月残業150時間超という人は珍しくなかった。それを「単月では100時間未満」「複数月では平均80時間以内」に抑える必要がある。違反すると「使用者は6カ月以下の懲役か30万円以下の罰金」が科せられる可能性がある。 原料の出来が平年並みで、製糖期間を従前通りにしようとするなら、工員を増やして3交代に移行するか、2交代を維持しつつも工員の休みを増やすなどして上限内に残業を抑える必要がある。 従来から人的にやや余裕のある3交代の工場も、製糖期は工員1人当たり平均月50~60時間程度の残業が生じるという。このような実態で、地理的な条件も、産地の状況も、工場の規模も異なる業界が一律の残業規制に対応できるのか、という7年前の懸念は払拭(ふっしょく)されなかった。 17年に2度、厚労省の労働政策審議会を取材した。主要テーマは「残業時間の上限規制」。「製糖」という文字は資料にはあったが、言葉として発せられることはなかった。 製糖業をめぐってはここ30年余で、品質(糖度)取引への移行、農家手取りがキビ代金と交付金の2階建て方式となる品目別経営安定対策導入などの制度改革があった。今回、工場の残業規制が始まるが、以前の制度改革とは性質が異なる。影響は産地全体に及ぶ可能性があり、かつ現状では把握困難な余波があると捉えるべきだろう。 働き方改革議論が始まって7年、関連法施行から5年。製糖業を取り巻く環境は変化し続けている。働き方改革対応のために国費で整備した沖縄・離島の季節工用宿舎は、地元人材の確保難で、早くも「増設が必要だ」と訴える声が上がっている。自衛隊の基地整備事業や活況な観光の影響を測りかねている島もある。 24工場24状況。その地の真の実情は、東京では分からない。工場任せにせず、それぞれの産地に合った対応策を産地で練るべきだろう。場合によっては、制度改正の要望も必要だ。